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第6話
翌朝、目覚まし時計が眠りを引き裂いた。
和也は重たい瞼をこすりながら、ベッドから身体を起こす。
カーテンを引くと光が一気に部屋中に流れ込み、少し眩しかった。
「おはよう」
「ああ、おはよう」
階段を下りると、台所で祖母の声が聞こえた。
妹の梨沙子は、制服のリボンを結びながらあたふたしていた。
母は早朝から仕事に出ているため、朝の身の回りの世話は祖母が引き受けてくれていた。
台所からは湯気が立つ音と、味噌の香りがほのかに漂ってくる。
「朝ごはんはしっかりと食べていかないとダメだよ」
祖母はそう言いながら、テーブルに次々と皿を並べていく。
毎朝変わらずに用意される、身体に気遣う献立だった。
「いただきます」
和也は手を合わせると、急ぎながらも箸を進めた。
時間を気にしつつも、祖母の視線を感じると、自然と噛む回数が増える。
温かい食事が静かに染み渡っていった。
「ごちそうさま」
食べ終わると、椅子を引き、立ち上がる。
身支度を整え、玄関で靴ひもを結びながら、
「いってきます」
「いってらっしゃい、気をつけてね」
祖母はいつもの調子でそう返した。
送り出す言葉は短いが、その声には変わらない気遣いが滲んでいる。
玄関先で祖母に見送られながら、和也は、テニスバッグを肩に掛けた。
ドアを開けると、そこには関岡祥太郎が待っていた。
「おはよう」
「やあ、おはよう」
祥太郎は、近所に住んでいることもあって、クラスメートの中では、和也とは一番親しい存在だった。
サッカー部に所属していて、そこそこ実力もあるらしい。
二人が自転車のペダルをこぎ出すと、風が制服の裾をはためかせる。
青く、高く、どこまでも広がる空の下を登校していった。
学校に着き、自転車置き場で鍵をかけていると、祥太郎が、ふいに声を掛けてきた。
「なあ、お前……、大丈夫か?」
「えっ……、何が?」
「いや、ちょっと気になってさ、何か悩みでもあるんじゃないかなって」
和也は立ち止まり、祥太郎の顔を見た。目を逸らさずに…。
「なんで、そう思うの?」
「直感。……俺、お前のことずっと見てきたから」
和也は何かを言いかけて、結局やめた。
「和也は自分のことあんまり話さないだろ。たとえば、テニス部でいじめられているとか、お前おとなしいからさ、ほらリーダーのなんて言ったっけ……」
「国島亮介……?」
「そうそう、その国島亮介だけど、けっこう遣り手できついんだろ?」
「そんなことないよ。僕なんか関係ないさ全然目じゃないよ、本当に心配しなくていいからさ」
和也が笑って答えると、祥太郎は、少し申し訳なさそうに続けた。
「部活のこと、マジで分からないから、もしかしてって思ったんだ。ごめん、変なこと言ったな、気にしないでくれ」
「…………。」
和也は返事をしなかった。
ただ、自分の前を歩いていく祥太郎の背中をじっと見つめていた。
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