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第8話

インターハイ予選の結果は、いいところまでは勝ち進んだものの、あと一歩 及ばず、やはり全国常連の強豪校が放つ圧倒的な気迫と練り上げられた戦術の前には、さすがに届かなかった。 試合後、コーチは選手たちを前にして、胸を張るように声を上げた。 「ここまで来れたのは、お前ら自身の力だ、堂々と胸を張れ!」 言葉は力強く、労いに満ちていた。 だが、選手たちの顔には「まだ先へ行きたかった」という悔しさが静かに残っていた。 それでも、やり遂げたという手応えだけは、確かに彼らの胸には刻まれていた。 和也は、二年生のリーダーである国島亮介と、副リーダーの児山佳孝に対して、特に親しみも、反感も抱いてはいない。 リーダーとしての資質があることも、テニスの腕前が群を抜いていることも、和也なりに理解はしている。 だが、それ以上近づこうとは思わなかった。 テニスコートでは、彼らは別世界の人間だ。 ラリーの鋭さも、ゲームの展開の読みも、和也とは比べものにならなかったのだ。 もちろん、試合を組まれることもないし、私語を交わす機会すらほとんど無いと言ってもいい。 和也にとって二人は遠い星のような存在だった。 練習が終わり、皆がコート脇で片づけを始めた頃、和也はネット際に転がっていたボールを拾い集めていたその時、不意に誰かの声が背後から飛んできた。 「おい、そこの……?ボール貸せよ!」 振り返ると、タオルで額の汗を拭きながら、亮介が立っていた。 長身のシルエット、汗に濡れた髪。 いつもは、コートの向こうでしか見えない顔がすぐ目の前にあった。 「あ、はい……」 戸惑いながらも、和也は手に持ったボールを差し出した。 亮介はニッと笑って、ひょいとボールを受け取ると、軽くバウンドさせた。 「悪いな。……名前、なんだっけ?」 「えっ……、あの、三ッ橋和也です」 「和也…、ね。覚えておくわ」 たったそれだけの会話だった。 亮介は、もう一度ボールを手に放り上げると、軽く受け止め、 「またな」 とだけ言って、仲間達の方へ歩いていった。 和也は、ぽかんと、その背中を見送った。 呼び止められたのは、たまたまだ、ただボールを手渡しただけ。 和也は、小さく首を振り、ボール籠に残りのボールをそっと放り込む。 夕方の光が、まだ少し熱を帯びたコートに長い影を落としていた。

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