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第9話
その数日後、部活では、夏に向けた強化合宿の話が持ち上がっていた。
部員達からは、どこか浮き立った空気が漂い、ざわめきが耳に飛び込んでくる。
新しいジャージの配布、遠征バスの手配、そして何より宿泊先での生活。
和也は、平静を装いながらも、心の中では不安を拭いきれなかった。
誰にも言えない小さな恐怖。
人に見られたくない身体の秘密があった。
普通の男子に比べて、乳首が少し大きかった。
それを、中学生の時にからかわれ、ひどく傷ついたこと。
それが高校生になった今、さらに秘密が増えてしまっていた。
合宿所に到着したのは、昼を少し回った頃だった。
山の静寂に包まれたその施設は、長年学生達を迎えてきた歴史を感じさせる佇まいで、木造の廊下を歩くたび、軋む音が懐かしさと共に響いた。
荷物を部屋に置き、簡単なミーティングを終えると、さっそくグラウンドへ向かうことになった。
合宿所の裏手には、赤土のコートが三面、木々に囲まれるように整備されていた。
普段使っている学校のコートよりやや狭く、ネットの張り具合も少し緩んでいるように見えたが、山の空気の澄みきった感じが、それを補って余りある心地良さを与えた。
「今日はとにかく動け!」
亮介の力の入った号令と共に、部員達はランニングを始めた。
リーダーであり、雄弁で、豪快で誰もが一目置く実力者。
いつも真っ直ぐな眼差しで部全体を引っ張っていく存在だ。
「力を抜いて行け」
その声は低く穏やかで、必要な時だけ短く言葉を発する、佳孝。
和也も他の部員に倣って、コートの周囲を走る。
普段よりも心なしか身体が軽く感じられるのは、やはり空気のせいだろうか。
それでも、最初のダッシュ練習の時点で呼吸が苦しくなり、他の部員達との差を思い知らされた。
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