11 / 27
第11話
午後の練習は陽が傾き始めた頃、ようやく終了となった。
汗まみれのTシャツを脱ぎ、グラウンドの端に腰を下ろすと、全身に心地良い疲労が満ちていく。
まだ日差しは残っていたが山の気温は徐々に下がり始めていた。
「じゃあ、そろそろ風呂へ行くかー!」
という誰かの声に、どっと歓声が上がる。
笑い声とざわめきが広がる中、和也は静かに立ち上がった。
(温泉か……)
その瞬間、緊張に固まった肩をほぐすように深呼吸をし、
(落ち着け……)
と自分に言い聞かせる。
皆から少し遅れて浴場へ向かった。
脱衣所で、そっとタオルで身体を隠し、人気のない隅を選んで湯船に向かう。
ざわめきと、笑い声が飛び交い、湯気に包まれて湿った空気が充満している。
「温泉は、やっぱ最高だな~!」
「今日も一日、終わったな~!」
「気持ちいい~!」
はしゃぐ声が、次々と聞こえてくる。
和也は、すばやく洗い終えると、湯船に身体を沈めたのも束の間、誰よりも早く風呂場を後にした。
まるで追われるように急いで服を着る。
無事に終えたというよりも、どこか後ろめたさを引きずるような、後味の悪さを感じた。
二日目も、何とか無事に乗り越え、これで二泊三日の合宿も終わり、明日は帰れると安堵し、和也は深く息を吐いて布団に潜り込んだ。
翌朝、薄い陽光が差し込む中、目を覚ました。
だが、いつもと何かが違う。
身体に何も纏っていないことに気がついた。
つまり裸で寝ていた。
「えっ…、どうして……!?」
布団の傍には、昨夜着ていたはずの服が散らばっている。
自分で脱いだ覚えはない。
「まさか、誰かが……?」
一瞬、背筋に冷たいものが走った。
周囲を見渡してみたものの、皆は自分のことの準備で忙しそうにしている。
誰一人として此方を気にかけている様子はない。
(何があったんだ……?)
動揺を隠しつつ、和也はそっと散らばった服を拾い集め、誰にも気づかれないように素早く着替えた。
部屋を出るとき、僅かに乱れた呼吸を抑えるように、手が拳になっていた。
朝食を終えた後、荷物をまとめ、バスへと乗り込む時間がやってきた。
「おーい、忘れ物ないか?」
亮介の大きな声が響き、部員達は笑い声をあげながら乗車していく。
和也もその流れに乗り、そして窓際へと腰を下ろした。
エンジンが掛かりバスが揺れ始めると、窓の外に広がる合宿所の景色が次第に小さくなっていく。
「…終わったな……!」
呟いた言葉は、誰にも届かず窓ガラスに吸い込まれた。
今朝の裸での目覚め。
未解決のまま、記憶の底に沈んでいく。
だが、胸の奥には、何か確かに引っ掛かるものが残っていた。
バスは揺れながら街へと進み、和也はその不安定な気持ちを抱えたまま、目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!

