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第14話

亮介と佳孝は、遅れてはならぬと、その場へと急いだ。 すると、その男らしき人物はすでに到着していた。 身長は170cmにも満たない小柄な男で、眼鏡を掛け、いかにも神経質そうな40代ほどの風貌だった。 彼はまるで、和也が来るのを今か今かと待ちわびるように、そわそわとした様子で辺りを見回している。 亮介と佳孝は、男の背後にそっと近づき、声を掛けた。 「田中勝さんですよね?」 その声を耳にした男は、振り向いたものの、なぜ自分がその名前で呼ばれたのか、訝しげに二人を見つめていた。 「なんだ君達は?」 男の問い掛けに、亮介は一歩も引かず、はっきりと告げた。 「これから申し上げることを、よくお聞きください。和也は此処へは来ません。今後、彼とは一切会わないと約束してください。理由は説明せずともお分かりのはずです。もし承知して頂ければ、私達は何も言わずに立ち去ります。しかし、聞き入れてもらえない場合は、こちらにも考えがあります」 亮介は、自分よりも遥かに年上の男に対しても堂々と怯まず言葉を放った。 その傍らで佳孝は、逞しい身体を見せつけるかのように胸を張り、威嚇するような眼差しで男を睨みつけている。 「ああ、和也か、知っているよ。あの子は気の毒な子でね。父親がいないんだ。前に映画を観たがっていたのに、連れて行ってくれる大人がいなかったから、私が一緒に行ってやったんだ。それ以来、親代わりのようなことをしてきたんだよ。とても喜ばれているよ。それが何か悪いことかい?」 「映画?親代わり?それだけじゃ済まないはずだ!」 亮介は、できる限り丁寧な言葉を選びながら話していた。 しかし、目の前の男の反省の色も見えない居直った態度に、怒りが抑えきれなくなり、言葉遣いが荒くなっていく。 「ふざけるな!お前のやっていることは立派な犯罪だ。こっちが下手にでりゃあいい気になりやがって……、分かってんのか!」 亮介の声は一気に強まった。 それでも男は怯むことなく、むしろ不敵な笑みを浮かべて言い返した。 「ふん。その制服、和也と同じ学校だな。そんな根も葉もないこと言って、大人を脅すつもりか?学校に訴えてやるぞ。そうなったら困るだろ。これから進学や就職もあるんじゃないのか?」 「そう来たか。ああ、俺達は退学になろうが、停学になろうが構やしねえ。だがな、お前はそうはいかないからな!」 話はさらに緊迫の度を増す。 隣の佳孝は、相変わらず無言のまま鋭い視線を男に突き付けている。 「お前、和也には本当のこと言わせておいて、自分は偽名を使っていたな、銀行員ってのも嘘だった……。こっちはな、調べが付いているんだよ」 亮介は一歩踏み出し、男に突き付けるように言い放つ。 「本名、橘政文。勤務先は税務署。上司の名前は橋本良一。署長の名前は寺島直樹。この二人に話を通すこともできる。信じるかどうかはお前次第だ。あと、四人家族だってな、妻と中学生、小学生の子供。上の子は今度受験だそうじゃないか?受験生を持つ親のすることか?」 そこまで言われると、男の顔から血の気が引き、言葉を失った。 亮介は、さらに容赦なく言葉を続ける。 「職を失い、家庭は崩壊。その前に刑務所が待っているな。和也は十五歳だった。十六歳未満の相手に、五歳以上年上の者が行為に及べば、たとえ同意があっても『不同意わいせつ罪』が成立する。憲法第百七十六条。懲役五年以上二十年以下だ」 男は屈辱と恐怖に震え、両手をブルブルと震わせながら顔を引きつらせ、黙り込んでしまった。 そしてついに観念したように、か細い声を絞り出す。 「わ、分かった……和也にはもう会わない、約束する……だから、それだけは勘弁してくれ。頼む……頼む……」 懇願の言葉を繰り返しながら、男は恐る恐る後退りしたかと思うと、突如向きを変え、一目散にその場から走り去った。 「くそっ…あの野郎、和也にあんなことしやがって…八つ裂きにしてやりたかったわ…」 亮介が怒りを噛み殺しながら言うと、横にいた佳孝が静かに応じた。 「まあ、あれだけ言ってやったんだ、あの様子じゃもう二度と現れないだろう」 そして、亮介の肩をポンポンと叩いてやった。

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