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第20話
日差しは柔らかくなり、街路樹のつぼみも僅かに膨らみを見せているものの、ふと吹き抜ける風には冷たさが残り、頬をかすめるたびに背筋を震わせる。
だが陽光は確かに春の訪れを告げていた。
そんな中、和也は二十五歳の誕生日を迎えていた。
相変わらず、母と一緒に市場で働く傍らで、事務用品や文房具などを取り扱う中小企業に勤めていた。
担当していたのは、地元の会社や小中学校へのルート配達。
オフィスの棚に補充するコピー用紙や、学級文庫に並ぶノートやペン、季節ごとの展示に使うクラフト用品まで、多岐にわたる注文を車に積み込み、地域を回る日々だった。
営業職ほど押しつけがましくなく、ルーチンワークすぎもしない……そんな絶妙なこの仕事を、和也はとても気に入っていた。
配達先では顔なじみの先生や事務員に笑顔で迎えられ、時には世間話に花が咲いた。
その日も、和也はいつものように学校の事務室に荷物を届けていた。
職員室の隅では、新学期の準備に追われる先生たちの姿があり、その中から一人の女性教員が声を掛けてきた。
「いつもありがとうございます、三ッ橋さん」
「いえいえ、こちらこそ。先生方もお忙しそうですね。もうすぐ始業式ですか?」
「そうなんです。春休みは短いですからね、あっという間なんですよ。…あ、そういえばこの前の画用紙、すごく助かりました。おかげで掲示板、子供たちが一生懸命飾ってくれましたよ」
「それは良かったです。自分の届けたもので、子供たちが何かを作ってくれてると思うと嬉しいです」
先生はふと、笑みを深めて言った。
「いつも子供たち、三ッ橋さんのこと見つけると大騒ぎなんですよ…。『お兄さん来た!』って走っていくから、こっちはヒヤヒヤです。でも、あの子たち、ああやって“変らない誰か”が来てくれることに安心してるんだと思います。あの年頃って、何気ない日常が意外と大きな支えになるんですよね」
和也は少し驚いたように、そして照れくさそうに笑った。
「そんなふうに思ってもらえるなんて……ただの配達員なんですけどね」
「“ただの”じゃありませんよ。ちゃんと、子供たちの中には残っています。あの笑顔とか、優しい声とか。……私たち教師もね、案外そういうものに助けられてるんです」
一瞬、職員室のざわめきが遠のいたような気がした。
忙しさの中でも、誰かが見てくれている。
その事実が、心にほっと火を灯す。
「それは……光栄です。じゃあ、また来週も、元気な顔を見せますね」
「はい、楽しみにしています」
そして和也は、次の配達先へと足を運んでいった。
背中には段ボール、心には、少しだけ誇らしい気持ちが残っていた。
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