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第21話
次に配達に訪れたのは、町でも比較的規模の大きな小学校だった。
昇降口のすぐ脇に荷物をまとめ、受け取りサインをもらおうと職員室を訪れると、ちょうど窓際の机で体育着姿の男性教師が書類をまとめていた。
「お、三ッ橋くん、今日もありがとな。重かっただろ?」
声を掛けてきたのは、体育主任の川瀬先生。
がっしりとした体格に、日焼けした肌が印象的な四十代前半の男性だった。
「いえ、今日は軽めです。紙物が少なかったので」
「そっか。それにしても、お前さん来るとさ、うちのクラスのガキども、すぐ気づくんだよ。“あっ、配達のお兄さん!”ってな」
和也は思わず笑った。
「いやあ……目立つことしてるつもりはないんですけどね」
「いやいや、あれは人柄だよ。ちゃんと目を見て話してる。ああいうの、今の子はすぐ見抜くんだよ。下手な大人よりよっぽど目が肥えている」
「……そう言ってもらえると、救われます」
川瀬先生は、少しだけ声を落とした。
「実はな。あのB組の俊太って子、ちょっと家でゴタゴタがあってさ。最近あんまり元気なくて心配してたんだけど……この前、お前さんが“よっ、またな!”って声を掛けたら、めちゃくちゃ嬉しそうにしてたんだよ。”配達のお兄さんが笑ってくれた”って」
和也は一瞬、言葉に詰まった。
「あ……俊太くん、そんなふうにですか?……」
「こっちは毎日顔合わせてるのに、届かないこともある。でも、たった一言が、ふっと心をほぐすこともあるんだよな。ありがとな」
和也は静かに頷いた。
自分がしていることは、ただの配達だと思っていた。
でも、誰かの心の片隅に、ほんの少しでも光を落とせていたなら……それは、思いがけない贈り物のようだった。
「……こちらこそ、ありがとうございます。教えてもらって嬉しかったです」
「また来週も、よろしく頼むな。うちの”ファン”が楽しみにしてるから」
「はい、頑張ります」
職員室を出る和也の背に、先生の豪快な笑い声が響いていた。
役に立っているという実感と、人の輪の中にいるという感覚が、日々の疲れを自然と和らげてくれていた。
自分の仕事が、誰かの学びや働く現場の助けになっている……そう思えるだけで十分だった。
進学の道を選ばなかったことに後悔はない。この日々を彼は誇りに思っていた。
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