21 / 27

第21話

次に配達に訪れたのは、町でも比較的規模の大きな小学校だった。 昇降口のすぐ脇に荷物をまとめ、受け取りサインをもらおうと職員室を訪れると、ちょうど窓際の机で体育着姿の男性教師が書類をまとめていた。 「お、三ッ橋くん、今日もありがとな。重かっただろ?」 声を掛けてきたのは、体育主任の川瀬先生。 がっしりとした体格に、日焼けした肌が印象的な四十代前半の男性だった。 「いえ、今日は軽めです。紙物が少なかったので」 「そっか。それにしても、お前さん来るとさ、うちのクラスのガキども、すぐ気づくんだよ。“あっ、配達のお兄さん!”ってな」 和也は思わず笑った。 「いやあ……目立つことしてるつもりはないんですけどね」 「いやいや、あれは人柄だよ。ちゃんと目を見て話してる。ああいうの、今の子はすぐ見抜くんだよ。下手な大人よりよっぽど目が肥えている」 「……そう言ってもらえると、救われます」 川瀬先生は、少しだけ声を落とした。 「実はな。あのB組の俊太って子、ちょっと家でゴタゴタがあってさ。最近あんまり元気なくて心配してたんだけど……この前、お前さんが“よっ、またな!”って声を掛けたら、めちゃくちゃ嬉しそうにしてたんだよ。”配達のお兄さんが笑ってくれた”って」 和也は一瞬、言葉に詰まった。 「あ……俊太くん、そんなふうにですか?……」 「こっちは毎日顔合わせてるのに、届かないこともある。でも、たった一言が、ふっと心をほぐすこともあるんだよな。ありがとな」 和也は静かに頷いた。 自分がしていることは、ただの配達だと思っていた。 でも、誰かの心の片隅に、ほんの少しでも光を落とせていたなら……それは、思いがけない贈り物のようだった。 「……こちらこそ、ありがとうございます。教えてもらって嬉しかったです」 「また来週も、よろしく頼むな。うちの”ファン”が楽しみにしてるから」 「はい、頑張ります」 職員室を出る和也の背に、先生の豪快な笑い声が響いていた。 役に立っているという実感と、人の輪の中にいるという感覚が、日々の疲れを自然と和らげてくれていた。 自分の仕事が、誰かの学びや働く現場の助けになっている……そう思えるだけで十分だった。 進学の道を選ばなかったことに後悔はない。この日々を彼は誇りに思っていた。

ともだちにシェアしよう!