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第22話
今日も配達を終え、いつものように爽やかな気分で帰宅した。
「ただいま」
「おかえり、配達ご苦労だったね…」
祖母が迎えてくれた。
「うん…今日も頑張ったよ」
早朝の市場での仕事、事務用品の配達、そして和也にはもう一つやるべきことがあった。
それは、ある資格を取る為に空いた時間を利用して勉強をしていた。
夕食までの時間…その勉強をする準備をしていたところだった。
その時、玄関に訪問者らしき気配を感じた。
「おや、誰か来たみたいだね…」
「ああ、本当だ…。いいよお祖母ちゃんは座ってて、僕が出るから」
祖母を制して、和也が玄関へと出向いた。
そこには、柔らかな笑みを浮かべ、一人の男が立っていた。
和也は、その時思った。
初めて見る顔ではない、どこかで会っていることは間違いない。
が……それが誰であるかはすぐには分からず、思わず首を傾げ目を凝らした。
男は和也に近づくと、さらにその笑みを深くして辿るように……。
「久しぶりだな、元気にしてたかい…?」
その声を耳にしたとき……
「えっ……!? あっ……!!」
顔は一瞬にして凍りつき、身体は小刻み震え、心臓は激しく脈打った。
懐かしい…確かに懐かしくはあった。
だが正直言って会いたい人間ではなかった…… 『招かれざる客』とでも言うべきだろうか…。
“児山佳孝”……顔には少し肉が付き、すっかり大人の男になっていた。
『キリッ』とした顔立ちは変わっていないのに、なぜ分からなかったのか…。
以前は無言と沈黙でいつも険しい表情を浮かべ、笑顔など見せたことはなかったからである。
こんなにも雰囲気が違うものなのかと驚いた。
和也は、理性で、その声や心の動揺を必死で抑えた。
そして、できるだけ冷静な態度で……。
「本当、久しぶり。な…何か?」
佳孝は、かつての無口さとは打って変わった声音で穏やかに言う。
「突然で悪いけど、出来れば少し付き合ってもらえないかな?もし都合が悪ければ、また出直してもかまわないけど…」
との言葉に……。
「えっ……!!」と、内心驚いた。
同じクラスになったこともなく、友人という訳でもなく、ましてや語り合ったことなど一度もない。
部活が一緒でも自分はあれ以来やめてしまったし、レベルも違っていた。
接点があるとしたら、あの時……。
和也の人生のある一頁を深く刻んだ出来事……。
また出直すということは、今断ったところで、また此処に来るということになる。
そこまでしてまでも、何の用事があるのだろう?心は過激な拒否反応を示したが…だからと言って断る理由もない。
和也も男だ、ここで物怖じしない態度を取るのも必要だと思い、
「ああ、いいけど……」
と、つい言ってしまった。
言ってしまってから後悔はしたものの、どうすることもできない。
少し戸惑いながら奥に入ると……。
「友人とちょっと出かけて来るよ…」
「ああ、気をつけてな…」
と、しわがれた声が返した。
上着を羽織ると、スマートフォンと財布だけをポケットに入れて佳孝に従った。
外に出ると、車に乗るように促される。
まるでパトカーにでも乗せられる気分だった。
助手席に座ると、すぐ隣に佳孝がいる、さっきよりも距離が近い…心臓が急激に鼓動を速めていくのが分かる。
それを聞かれてしまうのではないかと思わず身体を堅くしてしまう。
沈黙が続く。
相手がしゃべってくれないと、自分からは何も言うことができない。
陽が沈みかけた夕暮れ時を、柔らかな光が残るなか、桜のつぼみが透き通るように輝きを与えていた。
だがそんな景色は一切目には入ってこなかった。
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