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第23話
七、八分ほど車に揺られただろうか、少し小高い所にある山荘風のカフェに連れていかれた。
……入るなり、
「予約していた、児山ですが」
スタッフに案内されて席に着く。
二人ともホットを頼んだ。
店内のランプ型照明は少し落とされていた。
壁には日本有数の山岳写真が飾られており、ピッケル、ザイル、かんじき、などの山岳アイテムがディスプレイされていた。
おそらく、この店のオーナーの趣味であろう。
地元ではあっても和也はここを訪れるのは初めてであった。
「急に呼び出したりして悪かったな…」
「別に構わないけど……」
もじもじと前に回した手を遊ばせながら、弱弱しく首を横に振って答える。
和也にとってみれば、この『青天の霹靂』に近い状況を知りたかったが、どう訊いてよいのか分からなくて、相手の出方を待つことにした。
「家族はみんな変わりない?」
佳孝が切り出した。
「祖父は亡くなって、妹は結婚したよ。今は、祖母と母との三人暮らしだ」
「そうか…お祖父さんは気の毒だったけど、妹さんは良かったじゃないか」
「うん、まあね。そっちはどうなの?」
「うちも母親が亡くなって、とうとう俺も天涯孤独になったよ」
「えっ…お母さんが…」
「母親は女手一つで俺を育ててくれた。保険屋をやっていたんだ、結構遣り手でね、元気な人だったけど病気には勝てなかったな、碌に親孝行もしてやれなかったよ」
「天涯孤独って、じゃあ誰もいないの?」
「親戚があるにはあるんだけど、付き合いがほとんどなくてね、天涯孤独みたいなもんだ」
この男は、こんな家庭環境だったなんて知らなかった。
自分も決して恵まれた方ではないが、もっと寂しい想いをしていたんだ。
なのにそんなことは、少しもおくびにも出さす、いつも毅然とした態度で誰からも一目置かれていた。
育った環境に関係なく生まれ持ったこの男の本質なのだろうと改めて認識をした。
佳孝の評価が和也の中で少し上がった。
「仕事はどんなことしているの?」
今度は、和也が訊いた。
「大学を卒業してから東京に就職したんだけど、今度転勤でこっちに来たんだ。仕事の内容は工業用の換気扇の販売とか…会社周りのセールスみたいなものだな…ほら、高速道路の中に大きな換気扇が回っているだろ、あんなのかな、まだ他にもあるけどね。俺は、東京から東が担当だから、そっちの方にも出張なんかに行ったりもする」
「そう、すごいね。行動範囲が広いんだ」
「和也は何をやっているんだ?」
「僕は大したことないよ。母親の仕事を手伝ったり、企業や小、中学校を回って、事務用品や文房具なんかを配達している。あと、資格を取る為に少しだけ勉強してるかな」
「えっ……どんな資格?」
今までの会話の中では、一番興味ありげな言い方だった。
「えっと、ゴメン…。まだ物になるか分からないから…」
と、言葉を濁した。
相手もそれ以上は詮索はしてこなかった。
その後、沈黙が続いたり、会話らしい会話も続かず、すぐに途切れてしまう。
店に入って、どれくらい経っただろうか…。
「そろそろ出ようか?」
佳孝は、請求書を手にして立ち上がる。
「あの…自分の分は払うよ」
誘ったのは俺だからと、和也の申し出を制して出口へと向かった。
こんな会話をする為わざわざ呼び出したのだろうか……?と訝し気な想いで佳孝の後を追う…。
店を出ると、外はすっかり闇に包まれ、辺りには漆黒の静けさが広がっていた。
再び車に乗るように促される、心臓の鼓動が消えた訳ではない、まだマグマがくすぶっていた。
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