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第26話

ふと目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。 不思議と静けさに包まれた部屋。 上着だけを脱がされ、ベッドに寝かされている自分に気づき、昨夜の出来事がフラッシュバックする。 いい歳をした男が、取り乱し、声を上げてまるで子供のように泣き崩れてしまった……あんな風に…。 思い出すだけで胸が苦しくなる…煩わしい。 羞恥と嫌悪が入り混ざり、今すぐにでもこの場から消えてしまいたかった。 そんな思考を遮るように、隣の台所から冷蔵庫の扉が閉まる音が聞こえた。 佳孝に、どんな顔をして会えばよいのだろう……。 躊躇っていても、何ひとつ変わりはしない……。 鉛のように重たい身体を無理に持ち上げ、意を決して部屋を出た。 「……おはよう。昨日は…迷惑をかけてすまなかった」 そう言って、素直に頭を下げる。 「……ああ、よく眠れたか? それならいい。シャワーでも浴びて来いよ。少しはスッキリするぞ」 佳孝は優しい声で言った、だがその穏やかさが、かえって胸に痛い。 初めて訪れた部屋で、他人のベッドまで占領して、そのうえシャワーまで借りるなんて……。 これ以上、恥の上塗りはしたくない。 「……これで失礼するよ。歩いて帰れる距離だから」 そう言い捨てるようにして、逃げるように玄関に向かおうとした。 すると、背後から鋭い声が突き刺さる。 「おい! 待てよ。そんな顔して帰ったら、お前の母さんビックリして悲しむぞ、自分がどんな顔しているのか分かっているのか!?」 今度は、強い口調だった。 確かにそうだ、もう手遅れだと分かっていても、思わず震える両手で顔を覆っていた。 「昨夜、お前の家に俺から電話しておいたよ、久しぶりに会ってつい話し込んでしまい、アルコールのせいで酔いつぶれてしまったから、今夜はうちに止めて、明日は必ず送り届けるって…そう説明しておいたよ。俺が誘ったんだから、俺に責任があるんだ…分かるだろ」 そう言うと、佳孝は二の腕と腰を掴み、そのまま風呂場まで半ば強引に連れて行った。 「タオルでも、ドライヤーでも、その辺にあるもの何でも好きに使っていいから」 洗面所の鏡に映った自分の顔を見た、髪はボサボサ、目元は腫れ、あまりの惨めさに目を凝視することが出来ず、思わず逸らすしかなかった。 と、その時……ふと、あることに気づく…電話…? 自宅の番号など教えた覚えはない。 電話帳にも載せてはいない、スマートフォン…? いや、ロックが掛かっている……どうやって調べたんだろう? 疑問は残るが、今はそれよりも先にやるべきことがある。 この情けない姿を、どうにかしなければ……そう思い、蛇口を捻った。

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