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第34話

最近和也は、どこか覇気がなく心ここにあらずといったようすだった。 別に体調が悪い訳ではない。 あんなんに立て続けに来ていた佳孝からのメールが、カフェの帰り以来 二週間経っても届かないのだ。 それが和也の胸に小さな不安を落としていた。(最初はあんなに嫌がっていたメールなのに……) じゃあ自分から……と思ってはみたけれど、近況を語り合えるほどの仲でもない……。 自分の失言が原因なんだろうか? それともあの出来事は単なる佳孝の気まぐれ……あるいは、出来ることは、もう果たした…と、思ったのだろうか? そんなふうに考えてしまう自分が、情けなくもあり、切なくもあった。 しかし、考えてみれば、所詮、肩を並べられるような男ではない、それは分かっていた。 このまま関係を続ければ、いずれ自分は足手まといになり、どこかに置き去りにされる……そんな未来が見える気がした。 だからこそ、終わりにするのなら今のうちがいい、そう自分に言い聞かせる……元の生活に戻ればいい、何も背伸びなどしなくてもいい。 馴染んだ日々の方が自分にはきっと合っている、そう思えば少しは楽になるはずだった。 けれど……知らなかった世界に出会えた日々が、今も胸の奥に熱く残っている。 和也という一人の人間の世界を少しでも広げてくれたのは、間違いなく佳孝だった。 その事実だけは、どうしても心から消え去ることができなかった。 和也は、意識して前を向いていた。 こんなことで、くじけてはいけない…そう何度も自分に言い聞かせながら日々をこなしていた。 家には、母がいて、祖母がいる…この家で唯一の男として、自分が崩れれば、二人はすぐにそれを察してしまうし、心配も掛けるだろう…だからこそ、弱い顔など見せられなかった。 配達の仕事の時も、子供たちには妙に人気があり、彼の姿を見掛けるや否や、走り寄ってきて「お兄さん!今日も配達?これ見て!」と、絵や工作を見せてくれる子もいた。 快活で真っすぐなその眼差しに触れるたびに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。 「また来てね!」と、元気な声で見送られながら車に乗り込む……。 いつもの爽やかなお兄さんのイメージを壊さないように、迷わず笑顔で応じた。 働くことは、心地よかった……。 身体を動かし、汗を流している間は、余計なことは考えずに済む、けれど、 ふとした拍子に、何かが心の隙間から顔を覗かせることがある。 そのたびに、和也は慌てて頭を振り、その想いをかき消した。

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