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第38話
そのメールは唐突に届いた……。
三週間ぶり……言葉にすれば、ただそれだけの時間に過ぎない。
だが、その「三週間」は、和也にとって思いのほか重く、長い沈黙として胸の内に横たわっていた。
何度もスマートフォンを手に取り、意味もなく画面を点けては消す…期待と諦めの間を行き来しながら、結局は何も起こらない一日を繰り返してきた。
その沈黙が、ようやくほどけたのだと気づくまでに、ほんの一瞬の間があった。
画面に浮かび上がった「佳孝」という名前を見た瞬間、和也の意識はすっとそこに引き寄せられた。
胸の奥にしまい込んでいた感情が、予期せぬ拍子に触れられたような感覚。
なくした大事なものを、もう二度と戻らないと諦めかけた末に、偶然見つけてしまったそんな――戸惑いと安堵が入り混じった気持ちが、静かに全身を包み込んだ。
指先が僅かに震え、心臓が一拍遅れて脈を打つ、その震えを誰にも悟られぬよう、そっと胸の奥にしまい込む。
それでも目元が僅かに緩み、強張っていた口元が、気づかぬうちに微かに和らいでいた。
その小さな変化が、三週間の沈黙が終わったことを、何よりも正直に物語っていた。
「元気にしているか? 実は、長期出張があって連絡ができなかった。詳しいことは会ってから話すよ。時間ができたら、またどこかに行こう」
短い文章だった。言い訳めいた飾りも、余計な感情も含まれてはいない。
けれど、その一行一行が、和也の胸の奥に静かにしみ込んでいく。
画面を見つめたまま、しばらく指が動かなかった……何もかもが終ってはいなかった。
自分の存在は、忘れ去られてはいなかった……。
忙しさの中でも、途切れた時間の向こう側でも、ちゃんと覚えていてくれたのだ……。
その事実を嚙みしめるように、心の中で静かに頷いた。
慎重に言葉を選びながら、和也は返信を打つ。
「うん、元気にしているよ。出張、大変だったね。疲れてない?僕は、いつでも大丈夫だよ」
それ以上は書かなかった…想いを詰め込みすぎれば、かえって壊れてしまいそうな気がしたからだ。
送信を終えると、スマートフォンをそっと伏せ、深く息を吐いた。
肺の奥に溜まっていたものが、ゆっくりと外へ流れて出ていく。
胸の内では、小さな波紋が静かに広がっていく、期待とも不安ともつかない揺れが確かにそこにある。
季節は、こうして巡っていく…たった一通の言葉が、どこか乾いた心を静かに潤していく…それだけで、人は――ほんの少しだけ強くなれる気がした。
翌日、佳孝からメールが届いた。
「来週末、空いているかな? またサッカー観に行かないか?……チケット取ってあるんだ、国立。今度はナイターで」
「うん、行きたい。楽しみにしているよ」
「じゃあ、土曜日の夕方…また迎えに行くよ」
二人とも多くを語らず、メールを交換した。
(来週末か……まだ少し先だな)そう思いながらも、以前のような沈んだ気持ちはもうない。
塞ぎこんでいた日々を思えば、今は心置きなく待つことができる。
和也は、どこか晴れやかな気持ちになっていた。
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