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第40話
スタジアムに着いたのは、陽がとっぷりとくれた頃だった。
遠くからでも、その巨大な光の塊は夜の空に浮かび上がるように見えていた。
和也の横顔には、どこか遠慮がちな緊張が残っていたが、佳孝はそれを言葉にせず、代わりに少しだけ歩調を落として隣に並んだ。
スタンドに上がると、一気に視界が開けた。
そこには、夜の闇を切り裂くような煌々と照らされたフイルドがあった。
グリーンの芝が、まるで光を吸い込んでいるように深く静かにそこに広がっていた。
「これが、ナイターだよ」
佳孝が、ぽつりと呟いた。
和也は、黙ったまま座り、じっとピッチを見つめていた。
キックオフの笛が響いた…ボールが弾かれ試合が動き出す。
ボールが蹴られるたびに、鋭い音が響き、それがスタンドの空気を微かに震わせる。
歓声はある…だが、不思議なことに騒がしさはない。
人々の熱が集まっているのに、なぜかどこか、静けさがあった。
「昼間とは違うね……」
和也がぽつりとこぼした。
「そう。何だろうな……? 夜の方が余計なものが見えない…だから逆に心が澄んでくる気がするのかな?」
佳孝は隣に視線を落とし、何かを言いかけてやめた……言葉ではなく、今はこの風景を共有するだけで十分だと思ったのだ。
光と影が交錯する広いスタジアムで、二人は肩を並べて座っていた。
言葉は少なかったが、気まずくなることはなかった。
ナイターのサッカーを一緒に観に行ったあの日を境に、二人は少しずつ、
また、会うようになった。
毎週という訳ではない…お互いの仕事もあれば、それぞれの日常がある。
けれど、時間が合えば連絡を取り合い、どこかへ出掛けることが自然になっていった。
今までは、無言が訪れるたび、どこかで探りあうような空気が流れていた…
でも、それを気まずいと感じることは、次第に少なくなっていった。
ぎこちなかった会話も、今では“タメ口”で話せるようになり、そして“佳孝”と
名前で呼べるようになっていた。
最初は、ほんの少し照れがあったが、しだいにそれが、ごく当たり前のように口をついて出る…名前を呼ぶたびに、どこか胸の奥が温かくなるのを感じた。
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