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第41話

和也は一人でいるとき、ふと考え込むことがあった。 佳孝に誘われて出掛ける時は、いつだって楽しい…遠出をすれば、見たことのない景色に出会えた。 知らない街の空気、喫茶店の静かな時間、競技場の歓声……それのどれもが 和也の世界を少しずつ広げてくれた。 けれど、ふと思うのだ…自分は、いつも連れて行って貰っているだけだ。 佳孝が車を出し、行き先を考え、段取りを整えてくれる…自分はただ、それに付いて行くだけ…もちろん、それを負担だとか、恩に着せるような男ではないことは分かっている。 けれど、それでも和也の中では、どこか釈然としない想いがあった。 (何もしてあげられない)という、自分自身への情けなさ……。 思い返せば、生まれ育ったこの町から出たことなど、ほとんどなかった。 誰かを案内できる場所なんて、思いつきもしない……気が付けば、本棚に飾ってある、ケニアの土産にもらった木彫りの動物たちを見ながら、溜息をつくしかなかった。 しかたなく、そんな想いを抱えつつ、部屋の片付けをしていると、ある物に手が触れた……その時だった、和也の頭にまるで稲妻が走ったかのような閃きが訪れた。 あっ…! 自分にはこれがあるじゃないか、そうだこれにしょう…これだったらきっと喜んでくれる。 いつも佳孝に連れて行ってもらってばかりいたけど、出掛けることだけが誰かを喜ばせる方法じゃない。 こんな身近なこと、どうして今まで気づかなかったんだろう。 ずっと悩んでいたことに、ようやく小さな答えが見えた気がした。 思いついた瞬間、和也はすぐにスマートフォンを手に取り、メッセージを打った。 「いつもありがとう。ささやかなお礼をしたいと思っているんだけど、今度の日曜日、都合いいかな?」 送信から数分後、通知音が鳴る。 「それは嬉しいな。でも残念なことに、その日は午後から仕事が入っていてダメなんだ。だからまた別の日にしてもらえるかな、本当にゴメン」 和也は、しばらく画面を見つめたあと、ふっと息をつき思った…これはもうメールじゃ間に合わない。 ちゃんと話をしたい、すぐに電話を掛ける…数コールのあと佳孝の声が聞こえた。 「もしもし、佳孝? 午後から仕事って何時からなの?」 「そうだな……二時か、三時には出掛けなければならないかな」 「だったら大丈夫。そんなに時間掛からないから。朝の十時にそっちに行って、昼の十二時には帰るよ。ね、それならいいでしょ?」 「うん、いいよ。それなら……でも、何をしてくれるのかな? 楽しみにしているよ」 その言葉を聞いて、やっと一歩、自分の足で踏み出せた。 和也の胸の中で、何かが静かにほころんだ。

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