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第53話

二人は一つのベッドで身を寄せ合って寝ていた。 男二人には少し狭い大きさだったが、不満はなかった…むしろ、その距離の近さが心地良かった。 やがて和也が、ぽつりと口を開いた。 「僕、このベッドに寝るの二度目なんだけど、最初の時のこと覚えてる?」 「ああ、覚えてるさ。泣き疲れて眠ってしまって、俺がここまで運んで寝かせたんだ」 「……あの時、翌朝目が覚めて、どうしようもなく惨めで、情けなくて……佳孝のこと、好きなんて気持ち全然なくて…だから、今こうしているのが信じられない。嘘みたいだ」 「後悔してるのか?」 「後悔なんてしてないよ。すごく嬉しい」 「じゃあ…お前はいつから俺のことが好きになったんだ?」 「本当に確信したのは、ケニアから帰って来た時かな」 「ああ、ライオンと象か」 「バカ…」 和也は少し吐き捨てるように言ってから、続けて… 「ねえ、佳孝って恋人はいなかったの? すごくモテそうなのに」 和也がそう尋ねると、佳孝は迷いなく答えた。 「いないよ。和也がいたから、他の人間なんて誰も目に入らなかった」 「そんな大げさな……」 和也は照れ隠しのように笑った。 「上手いこと言ったってダメだよ。だってさ、さっきのキス、すごく上手かったじゃないか。かなり経験がある感じがしたよ」 すると佳孝は、一瞬きょとんとした顔を見せた。 「えっ?」 予想外のことを言われたような反応だった。 「いいじゃないか。そんな細かいこと言うなよ。人間なんて色々あるさ」 佳孝はどこか気まずそうに視線を逸らし、そのまま話をはぐらかしてしまった。 佳孝ほどの男なら、放っておかれるはずがない。 きっとこれまで何人もの人から好意を寄せられてきたのだろう。 それでも彼は、自分を選んでくれた。 その事実が胸の奥をじんわりと温かく満たしていく。 和也は少しだけ視線を伏せ、それから思い切ったように顔を上げた。 「ねえ……僕のどこが良かったの?」 飾り気のない、素直な疑問だった。 「一目惚れだった! なんて可愛い子だろうと思ったんだ。そして、行動とかいろいろ見てたら、危なっかしくて、ほっとけなくて、そういうところも全部含めて好きになった」 「それって、僕が馬鹿だってこと?」 「そうじゃない。でも……そう思うのならそれでもいい」 たわいもない会話を交わしながら、狭いベッドの上で互いの距離はさらに近くなっていった。 やがて佳孝が真剣な顔つきになり、並んで寝ていた姿勢を変えて、和也を組み敷くようにして見下ろした。 「……和也!」 佳孝の低い声が、耳の奥を震わせる。 重ねられる口づけは次第に深まり、息と息が溶け合っていく。 唇の隙間から舌が差し込まれと和也は小さく震え、必死に応えるように絡め返す。 熱に溺れていくうちに、抵抗する余地など消えていく…和也の細い腕が、佳孝の背に絡みつき胸板の鼓動が伝わってくる。 やがて佳孝の手が、ゆっくりと和也のシャツのボタンを外していった。 華奢な上半身が白いシーツの上に露になる…そこには、可愛らしさと艶めかしさを合わせ持つ乳首が恥じらうように硬さを帯びていた。 久しぶりに目にするその秘密に、佳孝は思わず息をのむ…あの時、数人と共有した快楽の罪の記憶が蘇る。 だが、今こうして目の前にあるのは自分だけに許された存在だった。 頬を赤らめながら佳孝は身を屈め、右の乳首をそっと口に含む…舌先で柔らかく転がしながら、左の乳首を指で優しく撫でてやる。 「あっあっ、ン…あァあ…っん…ん、ん………」 和也の喉から、抑えきれない微かな声が漏れ続ける。 やがて左右を入れ替え、同じように丹念に愛でる。 すると和也が思いがけない言葉を口にする。 「……もっと、酷くしてもいいよ」 その声に、佳孝の動きが一瞬止まる…見下ろした瞳に不服そうな光が過る。 若かりし頃の、青さゆえの過ちを悔いるように……。 「大事なところだからな。これからも優しくしてやるよ」 その低い囁きが、逆に和也の胸を震わせた。 佳孝の掌は胸から腰へ、そして腿へと移り逞しい指先が、和也の熱を探り当てていく。 触れられるたびに、和也の身体は反応し、シーツを握る指先に力が籠っていった。 その時、佳孝がぼそりとこぼす。 「何も準備していない。このままじゃ和也を傷つけてしまう。何かオイルになるものを探してくるから、少し待っていてくれ」   「それなら、アロママッサージのときに使ったオイルがあるから……」   そう言って起き上がろうとした和也を、佳孝はそっと制した。   「いや、俺が取ってくる。どこにあるんだ?」   和也は部屋の隅に置かれたバッグを指差した。   「あのバッグを持ってきて」   「これか?」   佳孝が尋ねると、和也はその中から二本のオイルの瓶を取り出した。   一本は、和也がとりわけ大切にしているエッセンシャルオイルで、それを惜しげもなくティッシュに数滴落とし、枕元へ置く。 たちまち甘く艶やかな香りがふわりと広がり、二人を包む夜の静寂へと静かに溶け込んでいった。   そしてもう一本、大きめのホホバオイルの瓶を佳孝へ差し出す。   佳孝は無言でそれを受け取り、掌に少量を垂らした。   緊張を和らげるように指先へなじませると、和也のバックにそっと触れる。   和也はわずかに肩を震わせたものの、拒むことはなかった。   その反応に安堵した佳孝は、慎重な手つきのまま、静かに息を吐いた。 「心配しなくていい、無理はしないから」 そうは言っても、身体に比例したそこはかなりの質量があった。 あれ以来、和也はそう言った行為はしていない…したがって、そこはすっかり清楚な姿を見せていた…が、少しずつ思い出すかのように徐々になじみ受け入れて行った。。 みっしりと熱い肉棒で刺し貫かれ直腸を満たされる感覚に、小刻みに震える和也……。 この男に征服されているという現実に、苦しみ以上に強烈な快感を感じてしまう……せり上がる欲望を抑えようと荒い呼吸を繰り返す。 佳孝は、和也に負担を掛けさせたくないという気遣いもあったが、括約筋の締まりや、なかの絡みつきを堪能したいという思いもあって、しばらくそのまま動かずにいた。 その時、お互いはしっかりと見つめ合った。 誰にも見せることのない素顔…言葉では届かない想い。 高校時代の後悔も、離れていた年月も、胸の奥に抱え続けてきた想いも、長い歳月をかけて遠回りしながら、ようやく辿り着いた場所で、二人は心と身体が一つになったことを確信した。 やがて和也は、枕元で漂う香りを確かめるように小さく呟く。 「この香り……ローズだよ。花言葉はね。“深い愛”なんだ」 佳孝はしばらく何も言わなかった。 ただ静かに和也を見つめる。 その瞳には、長い間言葉にできなかった想いが滲んでいた。 「……そうか」 低く掠れた声が漏れる。 そして佳孝は、壊れ物を抱きしめるように、それでいて二度と離したくないというように、和也を強く腕の中へ引き寄せた。 肉棒をゆっくりと慎重に引き抜き始め、そしてまた、じっくりと押し進めていく。 緩い抽送……。 「これくらいならいいか?」 「うんうん」と、頷く…和也の身体を思ってやってのことだったが、狭い壁はねっとりと纏わりつき根元を締め付けてくる。 佳孝の感情が、どんどんと高ぶってくる…和也には悪いと思いながらも、そんな余裕が段々となくなり、自分の快楽を求めて突き進んでいく。 両手で和也の足を掴み、本位の抽送を開始した。 華奢な身体を抱きしめ奥深くまで腰を打ちつける…抜き差しするたびに、くびれが擦れて……。 「はあっ……はあっ…あっ、あっ…あああ………」 泣きながら喘ぐ和也の声を聞いて、さらに激しく打ちつける…やがて低く呻いて二人はほとんど同時に液体を放出した。 佳孝は、しばらく放心状態だったが…少し落ち着いて我に返るとバツが悪そうに……。 「約束を守ってやれなくて…すまん…」 和也は、ぐったりとした身体で泣き笑いをしながら、首を軽く振って答えた。 身体はまだ繋がったままで、佳孝は両手で和也の顔を包み込むようにして優しく口づけた。 そして、その大きな掌を使って、首筋、肩、胸、脇腹、下腹を撫で回した。 時々、乳首の尖りに引っ掛からせながら……その行為は愛しい者への深い愛情が籠っていた。 「おい、俺がいいと言うまでここを動くな、このまま寝ているんだぞ、分かったな」 命令口調で言われ、和也は「うん」と答えた。 佳孝は、自分のものをゆっくりと引き抜くと、素早くシャワーを浴び、バスロープだけを羽織り五分ほどで戻ってきた。 手には三本の蒸しタオルが握られている…そのタオルを巧みに使い分け、足の指先に至るまで、和也の全身を丁寧に拭き清めてやった。 「僕だってシャワー浴びたい」 「ダメだ! 今、綺麗にしてやっただろ」 「どうしてダメなの?」 すると佳孝は、和也の下腹を撫でながら思いもよらないことを言った。 「ここに俺の種が入っているから朝まで出すな。このエロい身体の中で十分に味わうんだ。朝になったら俺が洗い流してやる」 すると和也は、佳孝を睨みつけると不機嫌そうに言った。 「何がエロいだよ! そっちこそ…むっつりスケベじゃないか」 「アッ、ハハハハハハ………」 佳孝が、思わず高笑いをすると…… 「そうだ、その通りだ…お互い様だな」 やがて、その破顔がみるみるうちに真顔になっていく…そして、再び和也を組み敷くと神妙な面持ちで見下ろした。 「和也! ひとつ頼みがある」 「えっ…なに?」 佳孝は、吐息を落とすほど近くで低く囁いた。 「俺を、天涯孤独にしないでくれ」 その切実な声に、和也の一瞬強張った顔が、やがて柔らかく解けていく。 「バカだな」…小さく笑い、両腕を伸ばして佳孝の首に絡め、自分から唇を奪った。 熱が一気に燃え広がる…佳孝は堪えきれず、深く、激しく口づけを返した…。 酸素を奪い合うほどの濃密さで、何度も何度も…和也もまた、ただ受け入れるのではなく、舌を絡め同じ熱を返す…。 抱き合う腕に力が籠り、二人は互いの存在を確かめるように、いつまでも離れようとはしなかった。 二人を包むローズの香りは、まるでこれから先も変わることなく続いていく約束のように静かに漂い続けていた。

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