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第54話
翌朝、和也が目を覚ますと、佳孝はすでに起きていた。
窓の外はまだ白っぽく、冬の朝特有の冷たい光がカーテンの隙間から射し込んで来る。
部屋の空気はひんやりしているのに、布団の中は昨夜の温度がまだ残っていて、和也はしばらくぼうぜんと天井を眺めた。
その視線の端で、物音を立てない動きがいかにも佳孝らしくて、和也はそれだけで少し落ち着く反面、昨夜のことが頭を過り、胸の奥がむずがゆくなった。
佳孝は和也が起きたのに気づくと、こちらを見てふっと表情を緩めた。
「どうだ。よく眠れたか?」
その問い掛けは気遣いのはずなのに、和也はなぜだか真正面から答えづらかった。
昨夜の出来事――抱かれたこと、確かめられたこと、言葉にされて打ち明けられた心の寂しさ……その想いを受け入れたこと。
その一連を思い出すと顔が熱くなる。
「うん……まあね」
曖昧な返事になってしまった。
自分でも誤魔化したのが分かる。
佳孝もそれ以上は追求せず少し間を置いてから、まるで別の用事を思い出したみたいに言った。
「今、考えてたんだけどさ。今度……二人で旅行に行かないか」
「えっ……?」
寝起きの頭が一気に冴え、和也は上体を起こし佳孝を見上げた。
「まずは手始めに箱根ってのはどうだ?」
「本当に?」
思わず声が弾んだ。
寝ぼけた瞳がきらりと輝くのを自分でも感じる。
佳孝は少し照れたように視線を逸らしながらも、はっきり頷いた。
「本当さ。あと一か月くらいで正月だろ。温泉もいいけど……箱根駅伝が生で見られるぞ 」
その言葉を聞いた瞬間、和也の胸がぱっと明るくなった。
「わあ……夢みたいだ。箱根駅伝!一度、生で見てみたいと思ってたんだ」
でも、嬉しさが込み上げた直後に、現実が追いかけてくる。
和也はふと不安になって眉を寄せた。
「あっ……でも、箱根駅伝の時期ってものすごく人気だよね?今から宿なんて取れるの?」
すると佳孝は少し得意げに言った。
「実は箱根には、俺の会社の保養所があるんだ。今からでも間に合うと思う」
「えっ……保養所?」
「ほら、ケニアに出張に行っただろ。あの時、会社の無理を随分と聞いてやった。実は重役の奴らのために部屋が一つ二つ空けてあるはずだから、そこを頼んでみるよ。俺の頼みなら通るはずだ」
淡々と言うが、その内容は佳孝の器の大きさを感じさせる言葉だった。
和也は信じられない気持ちで佳孝を見つめ、同時に、胸がじんと温かくなるのを感じた。
佳孝は念を押すように続ける。
「……ただし言っておくが、サービスの行き届いたホテルや老舗旅館って訳にはいかないぞ」
「そんなのは分かってるよ」
和也はすぐに言い返した…そんなことは問題ではない。
佳孝が“二人で行く場所”を選び、“二人の予定”を立ててくれる…それが何より嬉しかった。
すると佳孝は、さらに少し先の話を重ねるように言ってきた。
「それから、もう少し先になるけど……海外旅行も考えてる」
「海外……?」
「和也は、まだ一度も行ったことないんだろ」
和也は小さく頷いた…海外旅行なんて、どこか遠い世界の出来事のようで、自分には縁がないと思っていた。
佳孝は現実的な口調で続ける。
「今は昔と違って高くなったし、俺も金がそんなにあるわけじゃない。だから近場だけどな。ゴールデンウイークや夏休みを避けて、二人で休みがとれる日を探そう」
“二人で”……その言葉が、何度でも胸に落ちてくる。
「うん……行きたい!」
和也は素直に言った。
「佳孝と一緒なら、どこでもいいよ」
言い終えるより先に、身体が動いていた。
和也は布団から這い出るようにして佳孝に縋り付き、胸元に顔を押し当てた。
佳孝の体温は朝でも温かい…抱き返される腕の強さに、昨夜の余韻がまたふっと蘇る。
(どうしてこんなに機嫌がよくて、気前がいいんだろう……)
そう思って、すぐに答えに辿り着いた。
――昨夜、佳孝を“天涯孤独”になんてしない。
そんな反応がよほど嬉しかったのかなっと……
「よし。じゃあ身体を洗ってやろう」
「えっ……」
「ほら、昨夜約束しただろ」
佳孝は、和也の下腹を撫でながら
「ここに入っている俺の種を朝になったら洗い流してやるって…」
「そんなのいいよ。子供じゃあるまいし自分でできるよ」
せっかく、いい気分でいたのに急に現実に戻されて和也は不機嫌な顔をした。
「ダメだ!俺の言うことを聞くんだ……旅行に行きたくないのか?」
「えっ……なに、それ」
佳孝にしては珍しく、悪戯っ子のような眼をして和也を見ている。
「………」
仕方なく、和也は……
「分かったよ…」
「よし、じゃあ準備をしてくるからな、起き上がらずに待ってろよ」
何やら、準備をしてきた佳孝は戻ってくるなり、軽々と和也を横抱きにして風呂場へと連れて行った。
なるだけ、身体を立たせないようにして、四つん這いにさせた。
和也は抗議をしたが、聞き入れてもらえず。
「もっと、腰を上げて、足を広げて…それじゃよく見えないだろ」
腰を高く、突き出すような、さらに屈辱的な格好をさせられた。
「いやだ! こんな格好」
「何言ってんだ、今さら隠すところなんかないだろ」
そう佳孝が言うや否や、二本の指を使って肛門がグイっと開かされた。
「あっ……」
生暖かいお湯が中へと注がれる。
そこを、もろに見られている恥ずかしさに加えて、昨夜、仕込まれた精液が白く濁って、排水溝に流れていく様子に顔が赤らむ。
凝視できなくて、思わず目を逸らすしかない。
やっとのことで放水が止まったと思ったら、人差し指を第二関節ぐらいまで突っ込むと、中でぐるっと一回りさせた。
「あっ!……そこまでしなくても」
思わず声が出てしまう。
「いいや、ちゃんと綺麗にしておかないとね」
(佳孝の奴、旅行を盾にとってずるいよ)
和也は内心そう吐き捨てていた。
「よし、終わったぞ。じゃあお互いに身体を洗いっこしょうか?」
佳孝はそう言うと、和也を向かい合うようにして立たせた。
「佳孝のバカ! この、むっつりスケベ !」
佳孝はその言葉には、大して動ぜず『うふふ』と小さく笑ってみせた。
が、次の瞬間、和也を抱き寄せると強引に唇を奪い、濃厚なキスを繰り返した。
和也は、最初のうちは抵抗を試みたものの、気が付けば広く逞しい背中に両腕を回し、絡める舌を受け入れていた。
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