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同棲準備中 寝る位置
先に風呂を上がった三好が、布団を敷いていた。
俺の部屋。同棲準備中とはいえ、今日は「泊まっていく」って言ったのは、三好の方だ。
「先、どうぞ」
そう言って、三好は布団の端――ほとんど畳の境目に寝転ぶ。一瞬、意味がわからなかった。
「……直人」
「はい」
振り向かない。視線は天井、体はきっちり横向き。余白を残すどころか、自分を削って空間を作っている。
「それ、何」
「え?」
「寝る位置」
ようやくこちらを見る。きょとんとした顔。
「狭いと悪いかなって」
「悪い?」
「恒一の布団ですし」
その一言で、腹の奥が冷えた。
(直人を怒鳴りたいわけじゃない。でも、これは見逃せないやつだ――)
「……直人」
「はい」
「それ、誰の癖だ」
三好は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……前からです」
「違う」
「え?」
「前からじゃない。戻ってる」
そう言って俺は布団に座り、三好の体に二の腕を回した。
「ちょ、恒一」
「いいから」
ぐいっと引き寄せて、真ん中に寝かせる。三好の体が一瞬こわばる。
「ここ」
「……」
「ここが定位置だろ」
三好は目を伏せた。
「でも」
「でもじゃない」
「……」
「選んだって言ったよな、俺」
低い声になったのが、自分でもわかる。
「直人と一緒にいるって」
「……はい」
「なのに、寝る場所で一人分引くのは何だ」
困った顔をした三好の指先が、シーツをつまむ。
「無意識です」
「知ってる」
「迷惑かけないように――」
「それが迷惑なんだよ」
はっきり言うと、三好がびくっと肩を揺らした。
「遠慮は、もう要らない」
「……」
「俺の前でまで、線を引くな」
三好はしばらく何も言わなかった。それから、小さく息を吸って。
「……怒ってます?」
「怒ってる」
即答すると、三好は目を丸くした。
「珍しいですね」
「自覚ある」
「……」
「でもな」
体を横にして、三好の額に自分の額を軽く当てる。
「怒らないと、伝わらないこともある」
近すぎる距離。三好の呼吸が、少し乱れる。
「直人」
「はい……」
「ここは、俺の場所でもあるけど」
「……」
「もう、直人の場所でもある」
そう言うと、三好は観念したように目を閉じた。
「……すみません」
「謝るな」
「癖で」
「直す癖にしろ」
少し乱暴に腕を回して、ぎゅっと抱き寄せる。
「ほら、動くな」
「……近いです」
「当たり前だろ」
三好の額が、俺の胸に当たる。今のところ抵抗はない。ただ、少し戸惑っているのがわかる。
「……恒一」
「ん」
「怒られるの、怖いです」
「じゃあ覚えとけ」
「……」
「一人で引くと俺は怒る。だから、ちゃんとここにいろ」
三好の手が、そっと俺の服を掴んだ。ほんの少し。逃げないって意思表示みたいに。
「……はい」
その声は、役のものじゃなかった。遠慮でも、条件でもない。
布団の真ん中で、ようやく揃った体温を感じながら俺は思う。
(怒るのも愛情だって教えるのは――実際のところ簡単じゃないな)
でも、絶対に逃がさない。もう、ここまで来たんだから。
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