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第九章 同棲準備中の些細な喧嘩3
先に風呂を上がった三好が、布団を敷いていた。
今日は三好の方から珍しく「泊まっていく」と言ってきた。それを聞いたときは、正直嬉しかった。
……なのに。
「先、どうぞ」
三好は布団の端、ほとんど畳の境目で体を小さく丸めていた。視線は天井に向けたまま、俺の方を一切見ない。一瞬、意味がわからなかった。
「……直人」
呼びかけても返事はない。俺は布団に膝をつき、ため息を吐いた。
「それ、何だよ」
「え?」
「寝る位置」
三好がようやくこちらを見た。きょとんとした顔をしている。
「狭いと悪いかなって……」
「悪い?」
胸の奥がざわついた。
本当は泊まると言い出した時点で、三好は俺に甘えたかったはずだ。なのに、また自分で距離を取っている。その事実に、苛立ちと愛しさが同時に込み上げてきた。
「……直人。それ、誰の癖だ」
三好の指がシーツを小さく握った。
「……前からです」
「違う」
「え?」
「前からじゃない。戻ってる」
俺は低く息を吐き、三好の体に腕を回して無理やり中央に引き寄せた。三好の身体がびくりと強張る。
「ちょ、恒一……」
「いいから」
抵抗する三好を押さえ込み、真ん中に寝かせてから、俺は彼の腰に腕を回したまま耳元で囁いた。
「ここがおまえの定位置だろ。まったく……俺に甘えたいと思って泊まったくせに、また自分で線を引くなよ」
三好の耳が真っ赤に染まる。
「……ば、ばれてましたか」
「ああ、丸わかりだ」
俺は三好の額に自分の額を押し当て、甘く低く続けた。
「泊まると言い出したときから、俺は直人のことずっと抱きたかった」
俺の気持ちを吐露すると、三好の呼吸が乱れた。しかも、羞恥で潤んだ瞳が俺を避けようとする。
「直人」
そのまま三好の顎を優しく掴み、強引に顔を上げさせた。
「俺はおまえを選んだんだから、遠慮はもう要らない。俺の前では、欲しかったら欲しかったって言え。いいな?」
言いながら、俺は三好の唇を奪った。最初は優しく啄むだけだったキスを、すぐに深く、貪るように変える。三好の身体がびくんと跳ね、俺のシャツを掴む手が小さく震えた。
「ん……っ、恒一……」
唇を離すと、三好は息を荒くしながら俺の胸に顔を埋めた。
「恥ずかしいです……そんなこと、言えない」
「じゃあ、俺が言わせる」
俺は下から上へ三好の首筋に唇を這わせてから、耳たぶを甘く噛んだ。片手で三好の腰を引き寄せ、さらに密着させる。
「直人、俺のこと欲しかったんだろ?」
「……はい」
掠れた声でようやく肯定した三好の背中を、俺は優しく撫で下ろした。
「可愛いな」
そのまま布団に三好を押し倒し、耳元で甘く囁く。
「今日は泊まったんだから、朝まで俺に甘えていいぞ。……全部、俺に預けろ」
三好は顔全部を真っ赤にしながらも、俺の背中にそっと腕を回してきた。その震える指先が、たまらなく愛おしい。
布団の真ん中で、ようやく揃った体温を感じながら俺は思う。
(怒るのも愛情だって教えるのは――実際のところ簡単じゃないな)
でも、絶対に逃がさない。もう、ここまで来たんだから。
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