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第十七章 甘えが日常になる朝

 変わった、と思ったのは朝だった。目を覚ますと肩が重い。正確には——俺の胸に、三好がすっぽりと寄りかかって眠っていた。 「……直人?」  小さく呼ぶと、胸元で三好の息がふわりと動いた。完全に無意識だ。昨夜は、特別なことをしたわけじゃない。ただ一緒に夕飯を食べ、テレビを見て、眠くなって——そのまま。 (……ああ)  以前なら、きっとこうならなかった。三好は必ずどこかで距離を測り、俺が先に寝落ちするのを待っていたはずだ。  でも今は、違う。起こさないように、そっと腕を回す。三好の額が俺の鎖骨に触れ、柔らかい髪が首筋をくすぐる。寝息が規則正しく、安心しきった音を立てている。 「……ん」  小さな寝言と、安心しきった寝顔がかわいい。 (――直人、甘えてる自覚がないだろうな)  その無防備さが胸の奥を甘く溶かした時、三好が薄っすらと目を開けた。 「……あ」  一瞬、状況を把握して固まり、三好の顔が一瞬で赤くなる。 「……すみません」 「何が」 「寄りかかってました」  慌てて離れようとする前に、肩を軽く押さえた。 「いい」 「……」 「そのままで」  三好は、迷ったように一度瞬きをしてから――ほんの少し、体重を預け直した。その小さな動作が、たまらなく愛おしかった。  その後、目覚まし時計の音でベッドから抜け出し、朝食の準備をしていると、背中に気配が近づく。 「……恒一」 「ん」 「コーヒー、俺が淹れます」 「いい」 「でも――」  言いながら、エプロンの裾を指でつまむ。引っ張るわけでもない。離してほしいわけでもない。  ただ、そこにいる確認みたいな仕草が、やけにかわいくて――。 「直人」 「はい」 「それ、何」  三好は困ったように笑い、俯いたまま小さな声で答えた。 「……癖になりそうなので、やめようかと思ってます」  照れた顔を隠すようにうつむく姿がかわいくて、俺は思わず振り返って三好を抱き寄せた。 「四六時中、恒一に甘えるの……困りますよね」  三好の声が恥ずかしそうに掠れる。俺は三好の腰を抱き、額を額にくっつけた。 「俺は困ってない」 「……」 「それが当たり前になっただけだ」  その言葉に、三好の表情が一瞬止まった。 「当たり前……?」 「ああ」  すると目の前にある肩の力が、ふっと抜けたのがわかった。 「……それなら」  三好は柔らかく微笑んで、小さく息を吐く。 「安心して、続けられます」  食後、ソファで並んで座る。特別な会話はない。それでも、気づけば三好は俺の腕に軽く触れている。  指先だけ、深く絡めない。でも、離れない。 (……無意識だな)  以前は、触れる前に必ず許可を求めるような視線があった。今は違う。必要だから、そこにいる。  テレビの音に紛れて、三好がぽつりと言った。 「……俺」 「ん」 「甘えるの、下手ですよね」 「そうだな」 「でも」  一瞬、間を置いて。 「恒一に受け止めてもらえるって、知ってしまったので」  そのまま、肩に頭を預けてくる。いつも口にする抵抗も、言い訳もない。 「もう……戻れないですね」 「戻らなくていい」  俺は何も足さず、何も引かずにそう答えた。  甘えは、特別なものじゃなくなった。愛情表現でも、確認作業でもない。ただ、生活の一部。選ばれた証明を、毎回しなくていい日常。それが、何よりも尊かった。  三好の体重が、俺の肩に安心したように預けられる。俺はそっと三好の髪を撫でながら、静かに思う。  もっともっと欲張りになっていい。俺は三好の全部を、ちゃんと欲しがっているから。

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