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第十八章 外では触れない、家では離れない
外での三好は、相変わらずだ。
俺は営業の出先からで、三好は警備明け後の買い物。駅前のカフェで落ち合い、昼を食べることにした。
現在、俺と三好は向かい合って座っている。
「このあと、俺は家に戻ります」
「了解」
言葉遣いも距離感も、きちんとしている。テーブルの上に並ぶ俺の手と三好の手の間には、きっちり余白があった。
恋人だと知らなければ、ただの知人という距離感だ。
(……まあ、そうだよな)
三好は仕事柄、人に見られることに慣れている。同時に、見せないことも徹底している。
店を出るときも、自然に一歩後ろに下がる。人混みでは、決して俺の袖を掴まない。
「恒一、また夜に」
「ああ」
挨拶もそれだけ。別れ際の視線すら長くない。
――なのに。
夜。俺が先に帰宅してシャワーを浴び、ソファで書類を見ていると、玄関の鍵が回る音がした。
「……ただいま」
いつもより低くて、少しだけ気の抜けた声が耳に届いた。
「おかえり」
「……」
返事をした刹那、足音が近づく。次の瞬間、体の側面に体温が当たった。三好は何も言わず、肩に額を預けてくる。
「直人?」
「……外、すごく疲れました」
それだけ言って、腕を回してくる。力はとても弱い。でも、離れる気はまったくない。
(おいおい。昼間の男と同一人物か……昼間はあんなに距離を取るくせに、家に帰ると五分も持たないんだからな)
外では触れない。家では、触れずにはいられない。
俺が何も言わずにいると、三好が小さく呟いた。
「外では、まだ少し恥ずかしいです」
「何が」
「恋人だって顔をするのが」
声が、布に吸われてくぐもる。
「でも、ここでは……」
「ここでは?」
「離れたくないです」
それが本音だった。
俺は書類をテーブルに置き、三好を抱き寄せる。すると、すぐに胸元に顔を埋めてくる。
「家だと……誰にも見られないから」
「見られてもいい」
「……今は、まだ」
その言い方が妙に可笑しくて、愛おしかった。
「外の三好も」
「……」
「今の三好も俺は好きだよ。どっちも同じだ」
そう言うと、腕の中で小さく首を振る。
「違います」
「どこが?」
「外の俺は、ちゃんとしてます」
「今は?」
「う……ちゃんとしてないです」
ぎゅっと、俺のシャツを掴む。
「でも、こっちの方がすごく楽で……」
それ以上、言葉にならなかったらしい。代わりに、呼吸が深くなる。
ソファに座り直すと三好は当然のように俺に抱きつき、肩に頭を乗せた。テレビをつけても、内容を見ていない。ただ、触れている。それだけで落ち着くみたいに。
「直人」
「はい」
「外では、無理しなくていい」
「……」
「でも、家では――」
一度、言葉を選ぶ。
「我慢しなくていい」
しばらくして、三好が吹き出すように笑った。
「ふふっ……それ、反則です」
「何が?」
「外と家、分けてる意味がなくなります」
それでも、離れなかった。
外では触れない恋人。家では離れない恋人。その差が、三好の精一杯だ。俺はそれを、矯正しようとは思わなかった。自然に境目がなくなるまで、いつまでも待てばいい。
今はまだ――家が三好の逃げ場所で、帰る場所で、甘えることのできる場所だ。
それで、十分だった。
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