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番外編 外では触れない、家では離れない

 外での三好は、相変わらずだ。  俺は営業の出先からで、三好は警備明け後の買い物。駅前のカフェで落ち合い、昼を食べることにした。  現在、俺と三好は向かい合って座っている。 「このあと、俺は家に戻ります」 「了解」  言葉遣いも距離感も、きちんとしている。テーブルの上に並ぶ俺の手と三好の手の間には、きっちり余白があった。  恋人だと知らなければ、ただの知人だ。 (……まあ、そうだよな)  三好は仕事柄、人に見られることに慣れている。同時に、“見せない”ことも徹底している。  店を出るときも、自然に一歩後ろに下がる。人混みでは、決して俺の袖を掴まない。 「じゃあ、また夜に」 「ああ」  挨拶もそれだけ。別れ際の視線すら長くない。  ――なのに。  夜。俺が先に帰宅してシャワーを浴び、ソファで書類を見ていると、玄関の鍵が回る音がした。 「……ただいま」  いつもより低くて、少しだけ気が抜けた声が耳に届いた。 「おかえり」 「……」  返事をした刹那、足音が近づく。次の瞬間、体の側面に体温が当たった。三好は何も言わず、肩に額を預けてくる。 「直人?」 「……外、疲れました」  それだけ言って、腕を回してくる。力はとても弱い。でも、離れる気はまったくない。 (昼間の男と、同一人物か……?)  外では触れない。家では、触れずにはいられない。  俺が何も言わずにいると、三好が小さく呟いた。 「……外では」 「ん」 「恒一の恋人でいる自信、まだなくて」  声が、布に吸われてくぐもる。 「でも、ここでは……」 「ここでは?」 「離れたくないです」  それが本音だった。  俺は書類をテーブルに置き、三好を抱き寄せる。すると、すぐに胸元に顔を埋めてくる。 「家だと……誰にも見られないから」 「見られてもいい」 「……今は、まだ」  その言い方が妙に可笑しくて、愛おしかった。 「外の三好も」 「……」 「今の三好も俺は好きだよ。どっちも同じだ」  そう言うと、腕の中で小さく首を振る。 「違います」 「どこが」 「外の俺は、ちゃんとしてます」 「今は?」 「……ちゃんとしてないです」  ぎゅっと、服を掴む。 「でも、こっちの方が楽で……」  それ以上、言葉にならなかったらしい。代わりに、呼吸が深くなる。  ソファに座り直すと三好は当然のように俺に抱きつき、肩に頭を乗せた。  テレビをつけても、内容を見ていない。ただ、触れている。それだけで落ち着くみたいに。 「直人」 「はい」 「外では、無理しなくていい」 「……」 「でも、家では」  一度、言葉を選ぶ。 「我慢しなくていい」  しばらくして、三好が吹き出すように笑った。 「ふふっ……それ、反則です」 「何が」 「外と家、分けてる意味がなくなります」  それでも、離れなかった。  外では触れない恋人。家では離れない恋人。その差が、三好の精一杯だ。  俺はそれを、矯正しようとは思わなかった。自然に境目がなくなるまで、待てばいい。  今はまだ――家が三好の逃げ場所で、帰る場所で、甘える場所であるだけだ。  それで、十分だった。

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