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第二十八章 看病の弊害

 慢性疲労がきっかけで重めの風邪を引き、ようやく回復した。医者から「もう大丈夫ですね」と言われ、体も完全に動く。仕事復帰までは、あと一日。ここまで完璧だ。  ――なのに。 (……なんだ?)  朝から、三好の様子がおかしい。いつもなら、俺が起きる頃にはキッチンに立っている。だが、今日は違った。 「恒一、起きました?」 「起きたけど」  声がやけに近い。いや、距離が近い。ベッドの端に座っている三好が、俺の顔を至近距離で覗き込んでいる。 「な、直人……?」 「体調、どうですか」 「もう平気」  そう答えたというのに、三好の手が額に伸びてきた。 「念のためです」 「念、多すぎないか?」  否定する間もなく、そのまま頬にも触れられる。 「熱、ないですね」 「こう見えても、元気になったけどな」  不思議そうに見上げて様子を窺うが、三好はいつも通りの無表情――なのに、やることだけがやたらと距離が近い。 (……あれ?)  朝食。席に着くと、いつもは向かい側に座る三好が、今日は隣に来た。 「こっち?」 「はい」  理由は、なぜか言わない。  コーヒーを飲もうとすると、マグカップを持つ俺の手首にそっと手が添えられる。 「カップ、熱いですよ」 「……わかってる」  でも、離れない。いちいち俺の動きを観察、何か理由をつけて、いちいち触れてくる。 (――何これ? 過保護すぎないか?)  嬉しいけど、わからない。  食後。ソファで新聞を読んでいると、三好が何も言わずに隣に座る。そして、肩に頭を預けてきた。 「……直人?」 「はい」 「どうした」 「いえ」  いえ、じゃない。腕に体重がかかっている。昨日までなら、考えられない距離感だ。 (まさか……)  思い当たるのは、あのとき。俺が高熱で、どうしようもなかった夜に、離れないでほしいと三好に懇願した記憶――うっすらある。 「直人」 「はい」 「……俺、なんかした?」  三好は、一瞬だけ視線を逸らした。 「自覚、ないんですね」 「ない」  正直に言ったら、ほんの少しだけ三好の口元が緩んだ。 「なら、いいです」  それだけ言って、今度は俺の腕に自分の手を絡めてくる。 (……え)  それだけで心臓が跳ねた。  理由がわからない。でも、拒否されてないのはわかる。  午後。洗濯物を干していると、後ろから抱きつかれた。 「……直人?」 「風、結構強いので」 「関係あるか?」 「あります」  実際はない。背中に、ぴったり体温がくっつく。 (さっきから、どういうことなんだ……?)  混乱していると、耳元で小さく囁かれた。 「回復祝い、です」 「そんな文化あったか?」 「今できました」  俺は思わず笑った。  嬉しい。理由はわからないけど、ただただ嬉しい。 「直人」 「はい」 「これ、いつまで続くんだ?」 「そうですね……」  訊ねた俺を見ながら、首を傾げる三好は軽快な口調で言った。  三好は少し考える。 「看病中の恒一が、思ったより大変だったので」 「それは謝る」 「いえ」  そこで少しだけ笑った。 「思ったより、可愛かったので」 「は?」  今度は俺が固まる番だった。 「それは、恒一が嫌になるまで」  そう言うと、三好は少しだけ強く抱きついてきた。 (――ああ)  ようやく気づく。これはきっと――俺が甘えた分の回収だ。  夜。ベッドに入ると、三好は当然のように距離を詰めてくる。 「……近くないか?」 「回復したから、問題ありません」 「理屈が逆だ」  でも、俺は腕を伸ばして三好を引き寄せた。 「直人」 「はい」 「……ありがとう」  何に対して、とは言わない。三好は少しだけ戸惑ったあと、小さく息を吐いた。 「覚悟してもらう、って……」 「ん?」 「看病中のこと」  俺の動きが止まる。 「どこまで覚えてる?」 「全部じゃありません」  その言い方が一番怖い。 「でも」  三好は少しだけ笑った。 「『行かないでくれ』は覚えてます」 「……」 「『直人じゃないと嫌』も」 「……」 「あと」 「もうやめろ」  そのまま、俺の胸に額を預ける。 「だから」 「……」 「少しくらい、仕返しされてください」 (……なるほど)  わからないままでも、嬉しいことは全部受け取っていいらしい。俺は三好の背中を撫でながら、静かに笑った。 (――回復してよかったな、俺)  幸せそうに微笑む三好に唇を重ねたのは、必然だった――。  キスは深く、ゆっくりと。俺は三好の唇を味わうように角度を変え、何度も角度を変えて啄みながら、彼の身体をそっとベッドに押し倒した。 「直人……看病、ありがとう」  三好の瞳がわずかに揺れる。俺はその瞳を見つめたまま、額、まぶた、鼻先、顎と、丁寧にキスを落としていく。  「ずっとそばにいてくれて、俺のわがまま全部聞いてくれて……本当に、ありがとう」  シャツのボタンを一つずつ外しながら、露わになる肌に唇を這わせた。鎖骨のくぼみに舌を滑らせてから、胸の先端を優しく吸うと、三好が小さく息を漏らす。 「ん……恒一……んあっ」 「声、聞かせて。全部、俺にくれ」  俺は三好の身体を慈しむように両手で撫で回し、腹部から腰、太ももへとゆっくりと下りていった。硬くなり始めた彼のものを手に包み、根元から先端まで丁寧に扱きながら、先端にキスを落とす。 「あ……っ、あぁ……っは…ぁ」  三好の腰が小さく跳ねる。俺は彼の太ももに顔を埋め、柔らかい内側に何度もキスをしながら、ゆっくりと口に含んだ。  舌を絡め、優しく吸い上げると、三好の指が俺の髪を掴む。 「恒一……気持ち、いい……あっ、あっ…んんっ」  その掠れた声がたまらなくて、俺はさらに深く咥え、喉の奥で彼を包み込んだ。時折息を抜きながら、愛おしさを込めて奉仕する。  やがて俺は口を離し、潤滑剤をたっぷりと手に取った。三好の脚を優しく開き、指で後孔を丁寧にほぐしながら、何度もキスを繰り返す。 「痛くないか? 無理はするな」 「……平気……もっと、来てっ…は…ぁっ……!」  指を二本に増やし、ゆっくりと中を掻き回しながら、俺は三好の耳元で囁いた。 「看病中、俺がどれだけ甘えたか……全部覚えてるよ。お前が俺を抱きしめてくれた温もりも、額に当ててくれた手の冷たさも」 「ん……あっ、そこ……ふ、くぅっ…んっ」  敏感な場所を指で優しく擦ると、三好の背中がしなる。  俺は彼の唇を塞ぎながら、指をゆっくり出し入れして、十分にほぐした。 「直人……挿入るよ」  俺は自身を三好の入り口に当て、ゆっくりと腰を進めた。一番奥まで沈み込むと、三好の内壁が熱く俺を締め付けてくる。 「はあ……っ、全部、入ってる……」  俺は動かずにそのまま三好を抱きしめ、額を合わせた。 「好きだ、直人。お前がいなかったら、俺はここまで回復できなかった」 「……恒一」  三好の声が震える。俺はゆっくりと腰を振り始め、深く、優しく、まるで抱きしめるように彼の中を愛撫した。角度を変えながら何度も同じ場所を突くと、三好の喉から甘い喘ぎがこぼれ続ける。 「あ……っ、恒一……もっと、奥……そこっ」 「ここか?」  俺は三好の脚を自分の腰に絡めさせ、より密着した体位で深く突き上げる。汗で滑る肌を擦り合わせながら、キスを繰り返し、手を繋ぎ、指を絡め合う。 「看病のお礼、全部返すから……今日は俺に全部預けて」 「ん……っ、はい……あっ、あっ、んぅ…」  三好の瞳が潤み、俺を見つめてくる。その表情が愛おしくて、俺は腰の動きを少し速めながらも、決して乱暴にはせず、愛情を込めて何度も奥を突いた。 「直人……可愛い。俺の直人……」 「恒一……お、俺も好きぃ……」  その言葉に胸が熱くなり、俺は三好を強く抱きしめたまま、深く激しく突き上げた。肉がぶつかる音と二人の荒い息と、甘い喘ぎが部屋に満ちる。 「恒一、俺……もう、限界……あっ…んあっ」 「一緒に……来て、直人」  最後の何度かの深い抽送のあと、三好が強く収縮しながら達した。それに引きずられるように、俺も熱いものを彼の奥深くに放つ。  達した後も俺は三好の中から抜けず、そのまま密着したまま抱きしめ続けた。  汗ばんだ額にキスを落とし、濡れた髪を優しく撫でる。 「ありがとう、直人。本当に……愛してる」  三好は力なく微笑み、俺の背中に腕を回してしがみついてきた。 「……まだ、離さないで」 「離さないよ。ずっとこうしてる」  俺は三好の耳元で囁きながら、もう一度優しく唇を重ねた。 (……回復して、本当に良かった。おまえのおかげで俺は今、こんなに幸せだ)

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