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番外編 甘々買い物回「生活は二人分」

 看病が終わって、ようやく普段の生活に戻ったはずだった。 「冷蔵庫、空っぽだな」 「……ですね」  高瀬の一言で、俺たちは近所のスーパーに来ている。ただの買い物。特別な予定でもない。そう思っていたのに――なぜか、近い。  通路は十分広いのに、高瀬は俺のすぐ隣を歩いている。肩が触れるほどじゃない。でも視界に入る距離が常に一定で、妙に落ち着かない。 (……こんなに人、多かったっけ)  牛乳売り場で、不意に高瀬が自然に手を伸ばした。 「重いだろ。俺が持つ」 「いえ、これくらい――」 「いいから。俺がカゴを持つ」  結果、カゴは高瀬の手に収まった。俺は何も持っていない。 「……俺、何係ですか」 「一緒にいる係」  即答だった。否定する暇もなく、次の棚へ連れていかれる。  野菜、肉、調味料。そのたびに「それ好きだろ」「こっちの方が日持ちする」「最近食欲戻ったしな」と、やけに細かい。 (――看病、もう終わってますよ)  そう言いたいのに、言えない。否定する理由が見つからないからだ。  米売り場で足が止まる。 「前に買ったやつ、どうだった?」 「美味しかったですけど……量が多くて」 「余った?」 「少し」 「二人で食えばいいだろ」  さらっと言われて、言葉が詰まる。  二人で――未来の話みたいに、当たり前の声で。 「……それ、決定事項ですか」 「今はな」  “今は”の意味を考えようとして、やめた。代わりに、別の袋を手に取る。 「じゃあ、こっちにします」 「却下」 「え?」 「それ、前に俺が買ったやつ。イマイチだった」  そんなことまで覚えているのか。  結局、最初に高瀬が言った米がカゴに入った。  レジに並んでいる間も、距離は近い。ぼんやりしていると、耳元で低い声が落ちてくる。 「甘え方、忘れたのか?」 「――っ」  一気に血が上る。幸い、前の人は気づいていない。気づかれていたら、たぶんここから逃げていた。 「ここ、外ですよ」 「知ってる」 「……なら」 「我慢してる」  そう言い放った顔がどこか誇らしげで、全く我慢しているように見えないのがずるい。  帰宅して袋を開けると、違和感に気づく。お菓子が多い。しかも全部、俺の好きなものばかりだ。 「……これ、誰用ですか」 「直人」 「多くないですか」 「回復祝い」  楽しげに言って、高瀬は当然のように俺の頭に手を置いた。 「無理すんな。買い物くらい、甘えていい」 「……買い物なのに」 「生活だからだろ」  その言葉に、妙に納得してしまう。買い物は生活で、生活は二人分。ならこの距離も、この世話焼きも、きっと――。 (……甘え、なんだ)  そう思った瞬間、高瀬が満足そうに笑った。

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