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第53話 我慢は頑張るもの
腹も満たされ二人で俺の部屋に戻った。
「アティラン…は料理も出来るんですね。」
「惚れた人間を落とすなら胃袋を掴めってな。」
「えっ」
「俺の料理に慣れて、他のもん食えなくなるくらい虜になれば良いのに。」
「…料理がなくても…もう…」
「もう…俺に虜?」
「…ぅん」
照れたように小さく頷くエストレヤは計算なのではと疑いたくなる程可愛かった。
「だけど、エストレヤ以上に俺が惚れてるからな…もっと俺に夢中になって。」
「これ…以上?」
エストレヤにとって俺はどのくらい好かれているんだろうか?
これ以上俺に惚れたらエストレヤはどうなる?
独占欲や嫉妬心を俺に見せてくれるか?
今現在そういったものは一切見ることは出来ていない。
「そぅ、まだ足りない。」
「…ぅん。」
エストレヤが俺の事を好きなのは知ってる。
けど、俺はエストレヤを愛してる。
俺達には、それだけの違いがあると思ってる。
「ん?」
いつものように俺の膝の上に座っていたエストレヤがぎゅっと抱き付いてきた。
俺の言葉で自分なりに行動で示そうと
俺も応えるように抱きしめ、エストレヤの頭を撫でた。
「エストレヤそういえば学園パーティーってもうすぐだよな?」
「はい」
「パーティーって何すんだ?」
パーティーって俺が日本で見てきたものとは違うよな…。
「パーティーは学園長の挨拶から始まって、その後は王宮にも呼ばれるような楽団による国歌「国の希望となれ」が演奏され、二曲目からダンスを行います。その後は学生同士交流を深めたり軽食も準備されているので食事したりです。」
「ふぅん、ダンスしなくて良いんだよな?」
「…はぃ。僕もダンスしたことないです…。」
「以前の俺って誰かとダンスしてた?」
「いえ、グラキエス様は誰ともしてません。」
「なら、誰ともしなくて良いんだな。」
「…はぃ」
先程からダンスをしないと言うとエストレヤの表情が僅かに切な気に変わる。
確認のために二度聞いたが、やはり悲しみが伝わってくる。
「…どうした?」
「いえっ」
「ダンスしたいのか?」
「いえっそんなっ」
叶えてやりたいんだけど、ダンスって社交ダンスだろ?
やったことねぇんだよな。
「ダンスだろ?覚えてねぇんだよな…。」
「あっそっか…」
「ん?」
「いえ」
俺がダンスを覚えていないと言うと、どこか納得したように俺に凭れてきた。
ダンスにそこまで意味が有るのか?
「なぁ、パーティーのダンスになんか意味とかあんのか?必ずしなきゃいけないとか、なんか…」
「…ぁのぉ、規則ではないですが暗黙の了解で…一曲目は王族の方もしくはその年の高位貴族の方が一組だけが踊れます、二曲目が婚約者の方限定、三曲目以降から自由に踊れます。ですが、同じ人と何度もは踊れません。婚約者同士では二度まで、結婚して三度目が許されるんです。」
ダンスは見せ付ける為か?
一曲目は金髪野郎で二曲目が婚約者同士…三曲目がフリーね。
「ふぅんエストレヤはダンスしたいか?」
「………。」
したいんだろ?
ダンスを忘れた俺にダンスしたいって言えないけど、断るのもしたくないって葛藤がエストレヤの表情から見て取れた。
「これから練習するが間に合わなかったら許してくれよ?」
「無理しないで、僕は平気だからっ。」
「そこは「練習応援してる」だろ。」
「…れ、練習…応援してます。」
「んっ、頑張れるようにキスして。」
「…んっ」
唇は確り触れたが…それだけだった。
「…それじゃ頑張れねぇよ…もっとして。」
「んっふぅんんんっ」
唇を撫でられエストレヤの舌が侵入してくる。
俺の口の中に絡めとりたいのを我慢して、エストレヤの拙い舌に委ねた。
「…ちゅっ…これでっ頑張れっる?」
唇が離れ呼吸を整えながら尋ねてくるいじらしい姿に「足りない、もっと」と言いたくなってしまう。
こんな質問されて「頑張れる」って言う奴いるのか?
当然「もう少し」「これじゃぁ、だめ」って言うよな?寧ろ、言わせてるよな?
ん
で、俺からもっと濃いキスをして見本を見せ同じようにさせるってのが基本の流れだろ?
エストレヤって俺が初めてって言ってたけど、俺のが弄ばれていないか?
狙い通りの行動をさせられている気がしてならない、そして恐ろしいところはそれら全てが無意識からくる行動…天然の誘惑。
「エストレヤ」
ぎゅっと抱きしめ耳元で名前を呼べば、俺の背に遠慮がちに手が添えられる。
「はぃ」
「…頑張れそう。」
って言うしか出来なかった。
「ぅん、良かった。」
囁くように静かな返事だったが、嬉しさが伝わってくる。
「もっと」と無理に強請らなくてよかった。
俺の肩におでこが乗り、幸福が全身に広がる。
ダンス…頑張らねぇと。
エストレヤは今まで誰ともダンスをしたことがなかった。
婚約者が居なかったから…ん?三曲目は自由なんだよな?
それでも無かったのか?
ダンスが出来ない…って事はないだろな。
俺が「ダンスしたいか?」って聞いた時、「出来ない」とは答えなかった。
なら誰の誘いにも乗らなかった、もしくは誰にも誘われなかった…か。
婚約者が出来て初めてのダンスか…。
ん?
「エストレヤ、婚約者がいながらも二曲目のダンスをしなかったら、なんか意味があったりするか?」
「っ…」
ビクッとエストレヤの身体が強ばった。
婚約者同士で「ダンスをしない」には、何らかの意味があったようだ。
「えっと…婚約しているのに二曲目のダンスをしないというのは、二人の仲が悪い事を意味し「婚約解消する可能性がある」と噂されてしまいます…。」
…聞いといて良かったぁ。
「俺、本気で練習するわ。」
「あっ、無理しないで。皆、アティランが記憶喪失なの知ってるから…平気…だと思う。」
「エストレヤ、そこは「応援してる」だろ?」
「おっ応援してる。」
「…キスは?」
先程の流れで再びエストレヤからのキスを強請った。
「っ…んっんふぁんんあむっ」
主導権がエストレヤから俺に代わりキスに激しさが増す。
唇が離れれば閉じていた瞼が開き、揺らめく炎の瞳が現れる。
「ふっ頑張るから。」
「ぅん」
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