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第73話 禁止を禁止

抱き上げたまま食堂に入り食堂についてからも椅子に座らせ、歩くことをさせないでいれば注目の的だが俺は気にしなかった。 食事を取りに行くのは当然俺だけ、自分で行こうとするエストレヤを触れるだけのキスをして待たせた。 激しく貪るキスではなく、優しいキスで「ここで待ってて」と告げた。いつもと違う俺の反応に素直に従う。 今まで激しくすることでエストレヤから考える力を奪っていたが、優しくすることで素直に受け入れていた。 いつも俺は焦ってばかりで強引にエストレヤを従わせていた。快楽に流され甘く蕩けきった表情が好みだったが、今のように愛されている幸せから来る表情も良いな。 食事を手にして戻るとエストレヤの向かいにはフロイントが座り楽しそうに会話をしていた。 初めてかもしれない、エストレヤが笑顔で会話している姿をみるの。 フロイントのように攻撃性もなく丁寧な受け答えする姿はエストレヤと重なる。 俺が戻るとフロイントが一気に緊張し始めたのが見て取れた。 元の俺ってそんなに緊張しなきゃいけない奴なのか? エストレヤと共に食事を始めているとティエンダが現れた。 ティエンダの手には二つのトレイがあり、一つをフロイントが受け取り礼を言った。 友人同士ではどちらかが席を取り、もう一人が食事を持ってくるのはよく有ることだがこの二人は違う。 長い間友人以下の関係だったんだ、少しずつでも距離を縮め「婚約者」になろうと努力しているようだった。 無理矢理でなく自発的に。 フロイントは少しだがティエンダに笑顔を見せるようになっていた。 無表情に近いティエンダもフロイントには表情が柔らかい…ような気がした。 「二人はさぁ俺達を見て恥ずかしいとか止めて欲しいって思うか?」 突然の質問に二人は困惑していた。 俺も何の前置きもなく話してしまったなとは思ったが、エストレヤだけは俺が何を聞いているのか理解したようだった。 「いやぁ、婚約者同士でも人前では恥ずかしいって言われて。」 隣のエストレヤは照れたように顔を伏せてしまった。 「二人はどう感じてんのかなって…迷惑か?」 「迷惑ではっ…。」 ティエンダは勢いよく否定はするものの、言葉が続かなかった。 「「………。」」 ティエンダとフロイント見つめ合い通じ合ったかのように頷いていた。 「俺は婚約者というものがどうあるべきか分からず距離を取り続けていた。もし二人に出会わなければ婚約者との関係を変えようとは思わなかったし…考えたくはないが婚約解消を告げられていたかも知れなかった…。」 確かに以前話を聞いた時、婚約者に対して興味がないように見えたので婚約解消を望んでいると勘違いしてしまった。 俺がそう感じたのだからフロイントは随分前から感じ取っていたはず…。 「僕も婚約者との関係改善を諦めていた所があったので、二人には感謝してます。」 「諦めてたのかっ?」 フロイントの言葉にティエンダは衝撃を受けていた。 「………あっ…その…僕が、勝手に勘違いしてて…。」 ティエンダの詰め寄りに焦り出すフロイント。 「…諦めてたのか?」 再度確認し愕然とするティエンダ。 「………。」 「………。」 フロイントの思いがけない告白にティエンダは言葉を失い、フロイントの方も自身の伝え方に後悔していた。 「ふぅん、なら俺達は控える必要はないよな?」 気まずい二人は放置した。 「控える?何をです?」 「………?」 二人は何を控えるのか分からなかったようだ。 「いやぁ、俺がエストレヤに執拗に触れたり人目を気にせずキスするのは学園ではするべきではないんじゃないのかって話しになって…なっ?」 「…ん、皆…見…てるから…。」 羞じらいながらもエストレヤは自身の気持ちを告白した。 「確かに人目はあるが、俺は二人を見本のように思ってる。手を繋ぐよう助言を貰い…ひっ膝に座って話しをする事も二人を見たから出来たんだ。二人の睦まじい姿を見なければ変わることが出来なかったから感謝している。」 「…はぃ、二人に切っ掛けを貰いました。」 「………。」 二人から肯定の言葉を聞くとエストレヤは黙りこんでしまっていた。 「だとよ、こんなこと聞いても学園では大人しくするのか?エッチなキス禁止?」 エストレヤを試すように尋ねた。 「……ん…禁止…ん…しなくていいよ。」 二人の意見を聞き考えを変え、禁止はしない方向になったらしい。 例え禁止になっても止めるつもりはなかったけどな。 「ならして良いの?」 「……ぅんっ……んっぁむっんんあむっんん」 最終確認をし、許可が出たので多くの生徒がいる朝の食堂でキスをした。 抵抗しようか迷っている手が俺の胸に触れるも、瞼を閉じキスを受け入れている。 視界の隅に俺達のキスを凝視する婚約初心者の姿があったが気にせず続けた。真面目なエストレヤからエロいキスの許可が出たんだ、そちらを優先した。 「俺達って婚約者の見本らしいな。」 唇を離し耳元で囁いた。 「……ん」 エストレヤは照れながらも小さく頷いた。 食事を終え、席を立つ時もエストレヤを抱えあげエストレヤも俺の首に腕を回した。 調教の成果は出ていた。 俺達より後に来たティエンダとフロイントはエストレヤを抱き上げて歩く俺達の姿に驚き無言で見つめている。 「二人もいずれこうなる日が来るだろうな。」 預言者のように伝えた。 「「えっ?」」 婚約初心者の二人には当分先の事であり、その日にならないときっと分からないんだろうが俺には分かる。 ティエンダはフロイントを抱いたら歯止めが効かず奪いまくるだろう…そう思うと二人の進展にも興味が湧く。 「そうだ昼も時間取れねぇ?聞きたいことがあるだ。」 基本昼食はエストレヤと二人がよかったが、二人なら気にすることなくイチャつけるので問題ないと判断した。 「あっはい」 「…それは僕も…ですか?」 フロイントは自分も誘われたのか行くべきなのか行かない方がいいのか分からない様子だった。 俺とフロイントに大した接点はないので自分は関係ないって思っていそうだったが、今回俺が知りたいことをフロイントのが情報を持っている予感がした。 「あぁ、フロイントの方が知ってると思うから二人一緒が良いわ。」 「僕…ですか?はいっ分かりました。」 何故自分なのか分からないと言った表情だった。 「…それとさぁ、敬語とか良いから。」 「…ぇっ…」 敬語使うなって言われても今の状態じゃ無理だよな。 「徐々になっ。」 「…はぃ」 婚約初心者を残し俺達は部屋に戻り、いつものように膝の上にエストレヤを座らせた。 時間ギリギリまで唇が触れあい、学園に向かうも鞄を二つ持ちエストレヤを抱えた。 エストレヤは何度も「大丈夫」「歩けるよ」と俺に訴えるも許さなかった。 俺達の関係を知り、様々な仲の良さを目撃しても学園に抱き抱えて登校は今までなかったので多くの視線を集めていた。 その視線を気にすることはない…なんて事はない。 寧ろ注目されたくてした事だ。 俺はエストレヤを大切にしているし、エストレヤは俺のもんだと…。 これだけして変な気を起こすんじゃねぇぞ、と牽制した。 教室の中まで行こうとしたが、エストレヤに「ここで」と止められたので下ろすことにした。 扉一枚向こうを断られてしまった 「んっありがとぅ」 注目されることに慣れておらず、恥ずかしがりながらお礼を言う姿が可愛かった。 俺だけが見たいエストレヤだが、見せつけたいという思いもある。 俺の首に回していた手を偶然だが身体を撫でるように下ろしていくエストレヤの手を取り、手首にキスをし痕を残した。 「淋しくなったら、これを見ろよ。」 「…ぅん」 この程度の事にも未だに顔を赤くするエストレヤを見つめていた。 何でクラスが違ぇんだよっと不満を隠しながら、鞄を渡しエストレヤを先に教室に入らせる。 エストレヤの後ろ姿は違和感なく歩いているように…頑張れば見えたので、俺も自身の教室を目指した。

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