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第84話 白紙に戻るかも

ティエンダに案内されるままカフェテリアに向かうと、既に俺達以外は席についていた。 「なぁ、あそこに座っているのって…。」 「…あぁ、いるな。なんでいるんだ?」 はっきりと名前を言わなくともティエンダには誰の事か伝わった。 後ろ姿だったが赤みがかった髪色に敏感に反応してしまった。 近付くに連れ疑惑が確信に変わる。 奴だ。 よりによってアイツの隣の席をが空いてる…。 アイツの隣以外にも空いてるが、その隣がフロイントだ。 雰囲気的にフロイントの隣にティエンダ、俺、奴…だろうな。 座る位置ぐらい平気か…。 こいつがいるならエストレヤ来ても良かったじゃねぇか。 若干こいつの椅子が空席に近いのは気の所為か? 気付かない振りで席につき、横からの視線を無視し続けた。 「集まったので始めますか。」 「あっ待って。」 ティエンダの友人、コンパーニョが始めようとするとフロイントが止めた。 「どうした?」 「僕もう一人誘って……あっ来た。」 ティエンダが聞き返しフロイントが答えようとすると誰かが来たようだった。 振り向くと燃えるような赤い髪と瞳の美しい人が存在していた。 「…僕…来ちゃって良かったですか?」 躊躇いがちに聞く姿が可愛い、エストレヤが立っていた。 背中を向けている方向から怒りのオーラを感じたが興味なかった。 「でも、席が…」 後ろの奴から席を無いことを理由にエストレヤを追い出そうと必死さが窺えた。 「イグニス様こちらをどうぞ。」 気を利かせティエンダが立ち上がり席を譲った。 「ティエンダは座ってろ。」 今まで黙っていた俺が素っ気ない言葉を発したことで、何か勘違いした男の唇の端が上がったのを見逃さなかった。 「エストレヤ。」 手を伸ばし誘った。 エストレヤをいつものように膝の上に横座りさせた。 「あの…こんなんじゃ話出来ないんじゃ?」 「椅子がないんだ仕方がないだろ?」 エストレヤの背中を支えるように腕を回し片方の手も腰に回し、エストレヤの視界にアレが入らないように背を向けさせ、俺の視界の角には苦虫を噛み潰したような顔を捉えていた。 他の奴は驚きはしたものの不快な気はしていなかったようだったのでこのまま続けることにする。 「フロイントが誘ってくれたのか?」 「あっはい。」 「ありがとなっ。」 「いえ。」 やはり、フロイントとエストレヤを近付けたのは正解だった。 かなりのファインプレーだ。 その後は一人を除いて穏やかに話が進み、既に店の場所や人員も確保済みと報告された。 残すは料理人の教育とメニューを増やしたいとのことだった。 「あれは素早く提供し、手軽に食べられるのが売りだからな。基本は前回のやつだ。それの肉を増量したりチーズを挟んだり肉の変わりに魚のフライにしたりだな。単品でもいいし、ジャガイモのフライと飲み物のセット売りにしたりと個別よりセットで頼む方が多少価格を安くしてお得感を出す。後はデザート系。あれも手軽に食べられるものだな。常に有るものと季節限定のものを何個か。んで、店内でも食べられるし持ち帰ることも可能にしたらいい。あっ、客は席で注文すんじゃなくカウンターで注文し自分で席まで持っていく形式な。」 「「「「「「「………」」」」」」」 「どうした?」 全員の反応が困惑していた。 「いやっ、そのような形式の店を知りません…。」 コンパーニョが代表して答えた。 「どの辺がだ?」 何が不味かったんだ? 「…全部です。単品?セット…お持ち帰り?」 そういう売り方は今まで無かったのか。 「それにカウンターで注文?」 フロイントも加わった。 確かに屋台形式を知らない貴族には馴染みがないな。 例えあっても、店の中に入り注文してから席を探すというのは今までに無いのかもしれない。 「問題があるか?」 「「「「「「「………」」」」」」」 「カウンターで注文し精算した後は客自ら商品を手に席につき食事をする。そのあとは返却場所にトレイ等は置いて貰う。そうすれば店内でサーブする人間は必要なくなり人件費を抑えられる。この店は優雅さを売りにしているのではなく手頃で素早く料理を提供する事だと思うが…違うか?あの料理はナイフやフォーク等使わずテーブルマナー関係なく食べるものなんだよ」 「そうだったんですね…。」 意表を突かれたようなティエンダの呟き。 あの時一緒には食べてなかったか…。 「考えてるものと違ったか?…どうする?今なら辞められる。無理に思ったものと違うものを実行して結局辞めますってなると時間も労力も金も無駄にして、人間関係にも影響するかもな…。それだけじゃなく俺達が「無能」と噂される可能性もある…どうするか決断は早い方がいいぞ。」 「…俺は…やります。あの味を広めたかったので。」 ティエンダは引くに引けなくなっているようにも見えた。 一旦冷静に考えさせるべきだな。 他の奴らも…。 「そうか…他の奴とは個人的に話せ。皆がいると話せなかったりするからな。」 「…はい」 「俺も最初に言っておけば良かったな…やるなら店のコンセプトから考え直して、雇った人間も説明しておかないと「こんな店なんて聞いてない」ってなる。そうなれば、すぐに辞めるぞ。」 「…そうですね。」 ティエンダだけでなく数人が困惑気味な表情を浮かべていた。 今までが水の泡とまでは言わないが、ゼロからになりそうだと雰囲気で察したのだろう。 「…平気か?」 「…あっはい」 コンパーニョも平静を保ってはいたが混乱しているように見えた。 「もうダンス練習に行く時間だが、今日はどうする?」 「えっあっ行きます。」 ティエンダに向き直るも、まだ混乱を引きずっているようだった。 ダンスでもして身体を動かしていくうちに考えも纏まるだろう。 「なら、行くかっ。」 「はい。」 俺とエストレヤ、ティエンダとフロイントの四人はダンス練習に行くため席を立った。 残った奴らの顔は未だに困惑気味で、この後残った奴らで話し合うだろう。 その場に俺がいると本音を話し難いからちょうど良いかもな。 もし、他の奴らが今回の話を辞退したら俺が積極的に動くべきだよな。 ティエンダに全部任せるのは申し訳無い。 その後のダンス練習では俺もティエンダも大分良くなっていたと思う。 今日のティエンダは少し上の空だが、その方がフロイントを意識しすぎないのか上手く踊れていると感じた。 パーティーでも問題ないだろう。 無駄にフロイントを意識することがなければ。 意識しすぎなんだよ、最近はフロイントの唇見すぎ。 「キスしたいです」って言っているようなもんだろ。

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