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第108話 噂は嘘ほど広まるのが早い
食堂に入りいつも座る席付近に向かえばティエンダとフロイトの姿を見つけた。
近付くと二人も気付いた。
「グラキエス…大丈夫か?」
「あぁ」
ティエンダは声を押さえながら、慎重に声をかけてきた。
かなり周囲を気にしているように見えたが、食堂に入った時点でかなり注目を浴びていたので普段通りでも構わなかった。
「…イグニス様は?」
フロイトの方もエストレヤを窺いながら尋ねた。
これ程注目されてるのはパーティーでの一件が広まったのだろう、二人から心配の表情で見られる。
エストレヤを座らせ二人分の食事を準備した。
「グラキエス、この後時間あるか?話したいことがあるんだ。」
「あぁ、わかった。」
何も気付いていないように振る舞い、食事を終え四人席を立った。
談話室に向かい、何となくだが二人がけのソファにエストレヤといつものようにではなく並んで座った。
ティエンダとフロイトも膝に乗ることなく隣に座っていた。
「あの日の事が噂になってる。」
「…あぁ。」
注目を浴びていたので、だろうなとは思っていた。
確かに学園主催のパーティーで何か起これば、他人を蹴落とすための噂を広げる事に労力を厭わない貴族達により一気に広まるのは用意に想像できる。
「俺達は経緯を知っているし、教師達からも他言無用と言われたので誰かに話してはいない…いないんだが…。」
「なんだ?」
「間違った噂が流れている。」
「間違った?」
あれだけ目撃されてるんだ、間違ったってどう間違うんだよ?
「あぁ、パーティー会場でイグニス様が王子を誘惑し飲み物をかけられたと…そして控え室でも王子を襲い、あろうことか媚薬まで使っていた…と…。」
中途半端に間違った噂だ。
事実ではないのはすぐに理解できる。
金髪がエストレヤに突っかかり飲み物をかけ、控え室で金髪が俺に媚薬を盛った…。
中途半端に当たっている噂は広まるのが早い。
観ていた奴らが都合良く広めたんだろう。
「それだけじゃないんだ。」
「んあ゛?」
ティエンダは今の状況を正確に伝えているだけなのに、つい苛ついた返事をしてしまった。
「イグニス様が…。」
「…僕が何ですかが教えてください。」
エストレヤは既に聞いた噂だけでも不愉快なものなのに、ティエンダが躊躇うほどの噂に不安な表情でありながら尋ねていた。
「王子とグラキエスに媚薬を盛り、それだけでは飽き足らず他の男達とも愉しんでいたと…王子やグラキエスが休んでいるのは相当な媚薬で隔離されているが、イグニス様は今も男達と代わる代わる…。」
語るティエンダが申し訳なさそうな表情だった。
「…その噂は教師にも届いてんだろ?教師はなんて?」
「王子と高位貴族の問題を軽々しく話すわけにはいかない、今は静観するしかないと言われました…。」
それって、エストレヤ一人を傷物にして騒ぎが収まるのを待つだけって事だろ?
問題を起こしたのが王子だから忖度したと…。
その為にエストレヤを生け贄にした…。
「エストレヤ。」
「はっはい。」
涙目で胸の前で手を組むエストレヤ。
真実とは異なる噂を広められ、一人悪者にされたエストレヤ。
「基本は俺といろ、一人になるようなことはするな。」
「…はい。」
エストレヤは震える声で返事をする。
「俺も協力する。」
「僕もお側に…。」
ティエンダもフロイトも協力してくれるのはありがたい…が、全員クラスが違う。
結局、教室ではエストレヤは一人だと言うことになる。
「ありがとうございます。」
僅かに安心しているエストレヤに不安になるようなことは言いたくなかった。
噂が収まるのを待つしかないのか?
いくら加害者が王族だからって関係ない奴をスケープゴートにすんなよ。
エストレヤが言い返せないのを見越してだとするなら教師も屑野郎だな。
「教えてくれてありがとうな。」
「いや…なにも出来ず…。」
「教師の指示にしたがったんだティエンダは悪くない…そんな顔すんなよ。今回の件ではすげぇ助かってるから感謝してる。」
「………。」
少し気まずいものとなったが、ティエンダやフロイトに助けられたのは事実だ。
媚薬を盛られ助け出され、エストレヤを呼んでくれた。
それだけで十分だ。
部屋に戻るとエストレヤの顔色は真っ青だった。
当然だ、あんなデタラメな噂を流されれば。
一方的にエストレヤが悪者だ。
全ての被害者はエストレヤなのに…くそっ。
「エストレヤ」
ソファに座りいつものようにエストレヤを膝の上に乗せた。
俺にしがみつきながら身体を震わせていた。
「俺達は真実を知っている、今度はちゃんと守るから。」
エストレヤが落ち着くまで背中を擦った。
全ては俺の責任だ。
相手の不貞とはいえ綺麗に婚約解消出来ていなかったと言うことだ。
あいつは俺に相当な恨みを持っていたようだ…。
過去の俺か今の俺かなんて関係なく、俺の行動でエストレヤを苦しめた。
俺ではなく俺の弱点を突いてくるなんて…戦術としては有ることだが糞野郎の手口で不愉快極まりない。
「エストレヤ…愛してる。」
頬にキスをするが、極力エッチな雰囲気は出さず宥め続けた。
エストレヤは何一つ悪くないのに、何故こんなに苦しまなければならないだ。
「エストレヤは一人じゃない、俺がいる…ティエンダもフロイントも味方だ。」
「んっ」
「俺達は本当のエストレヤを知ってる。」
「…ん」
「不安になったら俺に言え。」
「…ん」
「エストレヤが苦しいと俺も苦しいんだ。」
「………」
「エストレヤが居なくなったら生きていけねぇよ。」
「…僕も。」
エストレヤは漸く俺を見た。
唇が触れれば互いに舌を絡めだし、噂のことを忘れるように互いを求めた。
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