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第111話 生け贄
「退けっ」
エストレヤの教室の様子がおかしいと話す声が聞こえ、急いでエストレヤの元へ向かった。
エストレヤの教室では人の壁が出来る程集まり、中心は見えなかったがきっとそこには…。
人を掻き分けながらエストレヤの姿を探した。
「…ァティ」
見つけた時のエストレヤは表情を青くし瞳は潤んでいた。
俺に助けを求めるよう手を伸ばす姿は弱々しく震えていた。
早くエストレヤの手を向かえたかったのに、スローモーションのように場面が進んでいく。
エストレヤの手に触れた時、倒れてしまうんじゃないかと不安が過り、胸の中に引き寄せ抱きしめた。
「お前なんだ?」
エストレヤの側には一人の男が立っていた。
こいつがエストレヤに何か言ったのは明白で、ここにいる全員が援護射撃するようエストレヤを無言で責めていたのだろう。
「僕は…その…」
突然の俺の登場に見るからに狼狽えだした。
「この状況は?」
「………」
男が何も答えなかった事に苛立ちが増していく。
「エストレヤ平気か?」
「グラキエス様っ」
「んあ゛?」
エストレヤに話しかけた途端になんだよ?
遂、不満の声で返事をしていた。
「…皆知ってます…その…イグニス様が何をしたのか。」
このバカはあのくだらねぇ噂を真実かのように受け止め、悪を成敗する正義のように詰め寄ったのか…。
「エストレヤが何したんだよ。」
ティエンダを疑う訳じゃないが噂がどんなものか知りたくなった。
俺がこいつに尋ねると、真実を伝える自分が正しいと疑わない表情だった。
「ご存じないかもしれませんが、イグニス様はアフェーレ王子に媚薬を盛ろうとしていたんです。」
やはり、ティエンダが教えてくれたような噂だった。
「…それで」
さらに求めるとエストレヤが加害者だと言わんばかりに睨みつけていた。
「グラキエス様が飲み物を取りに行ってもらっている隙にアフェーレ王子に近づき媚薬を飲ませようとしたんです。ですが失敗し逆に飲み物をかけられたんです。グラキエス様はイグニス様を信じたいのかもしれませんが騙されないでください。」
「………」
腕の中のエストレヤが震えながら俺の服を握りしめていた。
こいつらの顔を見せないよう抱きしめている手に力を込めた。
「グラキエス様あの時、薬を盛られたんじゃないですか?」
「あぁ」
俺の言葉で教室中がざわめき出した。
「やっぱり、それはイグニス様です。あの時だけじゃないかもしれませんよ。」
俺が認めたことで嬉しそうな顔して更に続けてくる。
「………」
こいつはどこまで喋るんだ?
「以前のグラキエス様は人前で大胆な行動はしませんでした。記憶を失ったにしては別人過ぎます。グラキエス様はイグニス様と距離を置き抗議するべきです。」
当然だ。
別人なんだから。
俺達の関係に勝手に口挟さんでんじゃねぇよ。
「……エストレヤ」
呼び掛けると悲しみの表情で俺を見上げてくる。
顎を掴み唇を奪った。
教室で大勢の人間に見られていても俺は気にしないし、今のエストレヤも受け入れていた。
唇を一度離したが再び唇が触れた。
軽く啄むようなキスを何度が繰り返した。
「エストレヤ泣くな。」
「……ぅん」
エストレヤを強めに抱きしめこいつらの顔を見せないようにした。
「お前、名前は?」
「へっあっ…モブ クラウド…です。」
先程までの勢いを失くし困惑し始めていた。
「クラウドの言った通り俺は媚薬を盛られた。だけどそれはエストレヤじゃない。俺に媚薬を盛ったのは、俺の元婚約者だ。」
元婚約者…俺の元婚約者を知らない奴はいない。
俺の口から伝えた真実に多くの奴らが動揺し顔を白くさせた。
「……へぇっ?」
当然目の前のこいつも媚薬を盛った犯人がまさかの人物で言葉を失っていた。
「勝手な思い込みでエストレヤにつっかかり、飲み物をかけた挙げ句に俺に媚薬を盛ったんだよ。その間、献身的に看病してくれたのがエストレヤだ。王族や公爵家、侯爵家の話し合いの末あいつは今王宮で謹慎中、これが真実だ。」
「………っ。」
漸く真実を伝えることが出来、こいつには生け贄になってもらった。
「侯爵令息への暴言・暴行に加え公爵令息に対して薬を盛ったんだ、元婚約者だからと言って許されることじゃない。大事になるところを王族と言うことで学園側が箝口令を敷き穏便に済ませたのを、お前は掘り返してこんな騒ぎを起こした。これがどう言うことか分かるか?」
「………。」
男は青ざめ明らかに震えだし、呼吸もおかしくなり出した。
「お前は侯爵令息に濡れ衣を着せ、公爵令息に嘘を吹き込み、王族の恥をさらけ出した。それらの罪を考えると謝罪だけで済むのか?」
脅しではなく真実を伝えた。
俺はこいつに言ったが、教室にいる全員も顔を青くし始めた。
嘘の噂で盛り上がり高位貴族を侮辱した結果、王族の恥を広めることになってしまったと…。
「ぼくっは…」
こいつの言い訳なんて聞く価値もなかった。
「薬で俺がエストレヤと婚約したと思っているようだが、俺がエストレヤを口説き落としたんだよ。部屋に連れ込んで離さなかった…記憶を失って抑圧していたもんが一気に解放されたんだろうな。エストレヤの身体の隅々に俺を覚えさせた……なぁっ…ちゅっ。」
抱きしめエストレヤの尻を掴んで指で刺激しながら唇を重ねた。
教室にいる奴らの視線を感じながらエストレヤを煽っていった。
エストレヤの背筋がしなり唇が離れた瞬間「ぁん…だめっ」と聞こえたが、今は態と注目を浴び奴らに見せつけていたのでエストレヤの言葉は無視した。
首筋にかぶり付き、僅かに抵抗を見せるも俺は止めなかった。
見てる奴らには、俺が強引にエストレヤに迫っていると映っただろう。
「エストレヤに二度と近づくな、くだらねぇ噂も広めんな。広めんだったら真実を伝えろ……行くぞエストレヤ。」
青白い顔で首を振るこいつは広めることはしないだろう…。
そもそも、明日から学園に来ることも今後こいつの顔も見ることはなくなるだろう。
俺は震えていたエストレヤの肩を抱き教室を出て行った。
向かった先は俺の部屋。
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