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第125話 隣の部屋では ネイビーブルーの者です

昨日の今日。 来たくはなかったけど行かないのも怖くて、結局約束の場所に来てしまった。 今日一日、昨日の事が頭から離れなかった。 僕に休まる場所はなくなってしまった。 貴族の中では居心地悪く、だからと言って平民とも交わることは出来なかった。 教室も図書室も中庭も貴族の人たちが占領…先客がいて、やっと見つけた唯一の逃げ場だった個別室も…あんな事に。 重い足取りで個別室に向かう。 僕の部屋だった個別室は今日も使用中。 「また覗くのか?」 「きゃっ」 どうしてこの人は突然後から声をかけるのかな、びっくりする。 「もう覗きません。」 「ふぅん、扉開いてないもんな。」 昨日僕が覗いた原因を指摘された。 今日は開いてなくても、昨日は本当に開いていたのに…。 「………。」 「隣の部屋行くぞっ。」 「……えっあっ、はぃ。」 この人は慣れた手つきで僕の手を取った。 初めて家族以外の人と手を繋いでしまった…これは最悪の思いでになるの? 扉を開け部屋に入り隣の個室の壁に手を付き耳を押し当てていた。 男が何をしているのか良く分からず見守った。 「ふっ、隣は今日もやってんな。」 男の言葉で何を聞いていたのか理解した。 「なっ、そう言うの聞くものじゃないよっ。」 「あぁ、見るものだよな。」 「…っく…」 覗きたくて覗いたんじゃないのにぃ。 僕に笑む男に揶揄われているようだった。 「意外だよな。」 ん?なにが? 「………」 「あのグラキエスが人前とか学園とか何も気にせず行動するなんてな。」 「………」 それは…僕もそう思う。 常に隙がなく完璧で、他人との関わりは極端に距離を取っていた人が記憶を失った瞬間別人になった。 食堂や学園で人目を気にせず抱き合ったりキスをしているのを何度か見かけたことがある。 まさか、あんな過激な現場を目撃するとは思わなかったが。 「あいつにも性欲が有ったんだな。」 「…そう言うことは…。」 …僕もそう思うけど、言葉にするべきじゃないと思う。 「カランもグラキエスの事慕ってたのか?」 カランて言われた。 僕には親しい友人もいないから名前を呼び合う事もなく、家族意外に呼ばれたことは無かったのにこの人はさらっと言ってくれた。 「…グラキエス様は雲の上のような人で僕なんか…。」 「僕なんかって言うなよ。カランは可愛いぜ。」 「………」 可愛いなんて言われたことなんて一度もない。 驚いて男を凝視してしまう。 信じられない言葉に混乱し、会話の続きが出てこなかった。 「座ろうぜ。」 手を引かれるままソファに移動した。 「あの座り方しようぜ。」 あの座り方? どの座り方? 首をかしげながら男を見ると、ソファの真ん中に座っていた。 繋いでいた手を引かれ男の前に立たされると、腰に腕を回され引き寄せられた。 「…ぁっ」 男が望む座り方はきっと昼休みにグラキエス様とイグニス様が座るあの婚約者の座り方だ。  男の膝を跨ぎ恐る恐る座った。 良いのかな? これで合ってる? 婚約者のいない僕が婚約者しか許されない座り方してる。 良いのかな? 男は笑い僕の腰に両手を回していた。 僕なにか間違ってた? 「もっと近寄れよ。」 「………」 確かに僕達にはかなりの距離がある。 「あの二人みたいに。」 「………」 あの二人は…抱き合うように座ってた。 それは婚約者だからで…僕なんかとしていいの? 「なんだよ俺じゃ不満なのかよ。」 「えっあっ違います…その…。」 「なんだよ?」 「僕としても…その…イグニス様みたいに…綺麗じゃ…ないし…。」 イグニス様はとても美しい顔をしている。 身体も手足もスラッとしていて綺麗な人。 「カランの顔は可愛い系だよな。」 「可愛くなんかっ。」 そんな慰めはいらない。 僕の事は僕が一番分かってる。 「可愛いぜ。」 「…そんなこと…。」 この人はなんでそんなことを言うの? 僕…勘違いしちゃう。 「なぁほらっ抱き合おうぜ。」 男は僕の腰に回していた手を解いた。 「………」 「もっと深く座れよ。」 男の言葉に従い、心臓の音を聞かれてしまうんじゃないかと思うほどの密着具合だ。 手を何処に置いて良いのか分からず、男の肩辺りを掴んだ。 男は僕の背中に手を回し、まるで抱きしめられているようで心臓の音が煩くなれば本当に男にも聞こえてしまうんじゃないか不安だった。 「カラン、キスしようぜ。」 「へっ」 キス? あまりにも突然の言葉に男の顔を見上げると、既に唇が触れていた。 舌が絡めとられ離れようとしても腕に力が入らなかった。 これってどういう事? 僕たちってどんな関係なの? 「はぁはぁはぁ」 初めてのキスは頭が真っ白になるほど濃厚で、何も考えられなくなるくらい僕を支配した。 男の腕が強まり僕を引き寄せる。 またキスされるのを雰囲気で悟るも脳が理解できず、抵抗も拒絶もなく唇が重なっていた。 口で呼吸していたので、あっさりと舌が捕まり取られてしまうんじゃないかと不安になった。 僕…どうしてこの人とキスしちゃってるの? もう考えられない。

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