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第142話 対面

王宮へは俺たちが来るのを事前に許可を貰っていたので、警備隊も使用人もなんの障害もなく応接室へと案内された。 流石は王宮、こんな状況でなければ映画のセットのようで興奮してしまう。 金髪を待つ間、使用人が紅茶を用意したが飲む気にはなれず、一切手をつけないままあいつが来るのを待った。 がちゃ 扉が開き金髪が現れ…父さんの年齢に近い人物も一緒だった。 まさか金髪の父親? 金髪って王子だよな?となると…。 マジかよ。 父さんに立つよう促され合図があるまで頭を下げた。 なんで俺が頭を差げてるんた? これが貴族と王族の違いか? 「座ってくれ…」 「…はい。」 促され再びソファへ。 「今回の件を調べ直した。アティランよ申し訳なかった。」 「………」 これって俺の意思に関係なく「いえ、大丈夫です。頭をあげてください」って言わなきゃいけないやつだよな。 許したくなくても国王に頭を下げさせるのは良くないから…だが、隣の金髪は不満顔だせ? 「アティラン。」 「あっはい平気です…なのでどうぞ頭を…」 俺があまりに黙り込んでいたので父さんに促され、二人はゆっくり頭をあげた。 「パーティーに今回の件、当然慰謝料は支払う。他には何かあるか?」 俺に直接聞いてんだよな? 父さんを確認すると頷いたので、俺の口から言うことにした。 「金…王子はそんなに俺の事が嫌いなんですか?殺したい程に。」 「なっ違うっ。」 いままで黙り込んでいた金髪が漸く口を開いた。 謝罪の言葉もなく、国王と一緒に渋々頭を下げただけだったのに…。 「俺に言いたいことあんだろ?言えよ。」 「………」 「憎かったんだろ?」 「違うと言ってるだろ。」 声を荒らげ否定をするも、金髪の言葉は信じられない。 「何が違うんだ?」 「私は…。」 「なんだよ?」 「アティランは私のだ。」 「ん?」 なに言ってんだ。 「婚約者となってから、お前はずっと私のだ。何があろうと…」 「んーちょっとよく分かんねぇな。婚約者だから所有物みたいに思ってたんだろ?なら、婚約解消すれば終わりだろ?」 「終わらない、お前は私のだ。」 「………」 なんでこいつはここまで俺を…過去のアティランを所有したがるんだ? 所有物が意思をもって手元から離れたのがそんなに気に食わないのか? 「俺から婚約解消したのが不快なんだろ?」 「不快だ、私は婚約解消するつもりはなかった。」   婚約解消するつもりもないのに浮気してたのか? ならあいつは妾候補ってことか? 「…ん?お前には恋人いんだろ?」 「アティランだ。」 …恋人つったらあのピンクだろ? 「それは元婚約者だろ?」 「婚約者であり恋人で未来の王妃だ。」 なに言ってんだろうな…。 ちらっと周囲を確認したが、父さんも困惑な表情を見せたが国王は溜め息をついていた。 何か知ってたのか? 「リーヴェス、そんなんじゃ伝わらん。」 国王の言葉で金髪は顔を顰めた。 「アティラン、なぜ私と婚約を解消した?」 「んあ?そんなもん、お前に恋人がいたからだろ?」 「あれは恋人ではない。」 何度同じ会話をするんだ…。 「肩抱いてたろ?俺が倒れてもあいつとくっついてたじゃねぇか。」 「違っ動けなかっただけだ…。」 言い訳だな。 「その後も一切謝罪も無かったよな?」 「…それは…」 子供じゃねぇんだ、もう誤魔化さず正直に言えよ。 「婚約解消も問題なかったって聞いたぜ。」 「私は納得していない。」 「なんでそんなに不満なんだよ。俺達って不仲だったんだろ?」 「なっそ…んな…はず…は…」 噂がどうであれ、本当の俺達の関係を知っているのは今では金髪だけ。 俺達には俺達しか知らない関係があるのか? 「んあ?違うのか?」 確認すると、父さんも困惑気な表情を浮かべていた。 「いい加減素直になりなさい…これが最後なんだぞ。」 「…っ…最後…」 国王の言葉に金髪は縋るようや表情で俺を見た。 なんだ? 何か…えっ?金髪って…まさかな…えっ? 「私は…アティランと婚約を望んだ。」 「………」 望んだ? 「…アティランは私との関係を国のための婚約者としか見ていなかった。私はもっとアティランとの時間を…」 「ん?」 アティランとの時間を? 「アティランが人との接触をあまり好きではないと感じたから一定の距離を保った。会話も常に簡潔で無駄が嫌いなのだと…。それでも婚約者である私との時間はきっちりと守っていた。常に完璧で感情の揺れが見えなかったが、ある時注意している姿を目撃した…何か争い事に巻き込まれた生徒を庇い相手を諌めていた。アティランは覚えていないかもしれないが、自身の失態でアティランに迷惑を掛け謝罪していた生徒に対してアティランは微笑んだんだ。…私の知らない表情で。あんな奴には見せるのに私には一切表情を崩さなかった…初めの頃は私も努力したさ、アティランの笑みが見たくて…だがアティランが私に微笑むことはなかった。次第にお前が憎くなった。必死に努力しても認められず笑顔さえ見せないお前が…。学園であの男を側に置く理由はアティランと正反対だったからだ。そんな相手なら好きになることもないし、うまく行けばアティランが私に感情を見せてくれると思った。笑顔じゃなく嫉妬でも…どんな感情でも良かったんだ。私はアティランに、見てほしかった…。そして、真剣に私に向かって注意するアティランを見るだけで次第に心が満たされ始めた…。」 「なら…なんで突き飛ばしたりなんかしたんだよ。」 「………」 「俺が記憶を失った時。」 「あの日は…突き飛ばしたのは私ではない。私は倒れるアティランを掴もうとしたが…腕が届かなかった…直前でアレに遮られた…私は一番大事な時にアティランを助けられなかった…。」 確かにあいつは金髪にしがみついていたな。 「なら、手紙だの寄越せば良かったろ?」 俺が休んでいる間一切連絡はなかった。 「…怖くて…出来なかった。」 怖くて…子供みたいな奴だな。 「婚約解消は?」 「私の意思ではないっ。」 …あぁ、金髪は一貫して婚約解消に不満をもっていたな。 「…全部間違ってんじゃねぇの?」 「………」 「誰かを利用して感情を出させようとしたのが間違え…今みたいに本音をぶつければ良かったろ?」 「そんなこと…出来ない…アティランに…そんな事…言えない。」 …拗らせすぎじゃねぇの? 「何でだよ、今は言えてんじゃねぇかよ。」 「お前はアティランだがアティランじゃない。」 …確かに。 ちゃんと見てたんだな…。 「…なら、別人の俺なら婚約解消しても良いじゃねぇかよ。」 お前の好きになったアティランは…もう…いない。 「嫌だ。」 「子供かよっ」 「お前はアティランじゃないが、アティランだ。私と婚約するべきだ。」 我が儘坊っちゃんだな…王子だったか。 「無理だろ。」 「何故だ。」 「俺にはエストレヤがいる。」 「あんな奴のどこが良い?」 あんな奴? 「他の男とイチャついたりはしないな。」 「なっ、私だってお前がちゃんと私の側にいればそんな事はしない。」 「…手遅れだな。」 「間に合う。」 「俺が無理なんだよ。」 「…私が…嫌なのか…。」 「お前がじゃなくてエストレヤが良いんだよ。」 「そんなにか?」 「あぁ」 「…もし、記憶喪失と分かった時ちゃんと謝罪していたら変わったか?」 「もし」なんてもんは無ぇんだよ。 そんなもんは考えちゃいけない。 いくら考えてもやり直しは出来ない。 「分からねぇな…」 希望をもたせた訳じゃねぇ。 本当にわかんねぇんだ。 「公爵邸に通いつめたら何か違ったか?」 「…かもなっ。」 そうだったら…エストレヤに会っていなかったかもしれない…。 「私の事もあんな風に愛したか?」 「どうだろうな。」 「今から…」 「それは出来ない。」 考えるのが面倒…というか…未来について様々に考えることは意味があるが過去の行為を今更考えても変わらない。 過去にすがり付いている今の王子には曖昧にせずハッキリと断るべきだと判断した。 「…本当に無理なのか。」 すがるような瞳…弱々しい声…。 「あぁ、無理だ。」 「………」 「もしかして、階段から突き飛ばしたのって俺がまた記憶を失えば関係を変えられるって思ったのか?」 「………」 そこまでして俺を…過去のアティランを取り戻したいのか? それともエストレヤに…。 「昔の俺に戻って欲しかったのか?それともエストレヤに成り代わりたかったのか?」 「私は…あれになりたかった…っく…」 そんなに誰かに愛されたかったのか? 確かにこの世界の奴って愛情表現乏しいよな…。 お前は過去のアティランに愛して欲しかったのか…。 …泣くなよ…。 「…私はアティランに愛されたかった…。」 「…それは出来ない。」 俺は…アティランじゃねぇ。 「私はアティランしか嫌だっ。」 「こんだけ周囲を振り回して元には戻れねえよ。」 「嫌だ。」 「…子供じゃねぇんだ、俺じゃなくても良い奴沢山いんだろうが。」 「…いない。」 意固地になってんじゃねぇよ。 それ、記憶喪失になる前だったら修復可能だったのかもしれない。 だけど俺に言われても、もうなんも変わんねぇんだよ…。 全ては…手遅れだ。 「そんな風に思ってりゃ見えねぇよ。相手の事をちゃんと見ろよ。」 「アティランは私の事をちゃんと見ていたか?」 「…過去のアティランの事は俺にはわかんねぇ。俺にはあいつといるあんたが幸せに見えたよ。」 これは嫌みじゃねぇ。 本当にそう見えた。 「………」 過去のアティランなら、ちゃんと見てたんじゃねぇの? 真面目な堅物なら相手を知らずに非難などしないだろうし、注意をするのは見ているからだ。 返ってこない贈り物を贈ったりするくらいには、ちゃんと婚約者してたんじゃねぇの本人なりにさっ。 そこに気付いていりゃ変わったのに…。 贈り物に実用品を贈ったのは常に「身に付けてほしい」「使ってほしい」って事だろ? あんたに迷惑にならないもので、特別じゃなく常に必要とされるものを。 そんな風に考えながら選んだはずだ、誰かに頼むのではなく本人が…。 その事を伝えようか迷ったが、変に期待させたくはなかったので言わずにいた。 「次は間違うなよ。」 「………」 これでもう本当に終わりだろう。 俺と父さんは席を立ち、屋敷を目指した。 心置きなくエストレヤとエッチするために。 「はぁ…エストレヤに会いてぇ。」 小さくなる王宮を眺めながら呟いていた。

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