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第144話 ネイビーブルーの男です

あの日も個別室に呼ばれて行きたくないけど向かっていた。 思い足取りで階段を下りていく。 「お前は私のだ。」 誰かの声が響き音が抜けていく。 手すりから身を乗り出し確認すると叫んだのが王子であり手を伸ばしていて、誰かが宙に浮いていた。 「……ぁっ…」 叫びたいのに声が出ず、硬直していた。 「おいっ嘘だろっ。」 真横から声が聞こえ、隣に人が居たことに全く気付かなかった。 隣に居たのはグレーの髪色のあの人だった。 彼は僕より先に階段を駆け下り、グラキアス様の元へ辿り着いていた。 「アティランに触れるなっ。」 アフェーレ王子の言葉に僕は怯んでしまったが、グレーの彼は聞こえなかったようにグラキアス様に触れた。 僕も近付くが何も出来ず、彼の指示に従い先生を呼びに行き保健室に付き添い、その後イグニス様を呼びに教室へ向かった。 何が起きたのか良く分からなかった。 アフェーレ王子が手を伸ばしグラキアス様が階段から落ちた。 突き飛ばしたように見えたけど…まさかアフェーレ王子がそんなことするはず…。 僕の見間違い? だけど、あの時のアフェーレ王子の表情…嗤ってた…。 僕はイグニス様を保健室に連れていった。 だけど、様子がおかしい。 そんなに時間は経っていないのに扉の前には護衛の人が居て中に入ることが許されなかった。 崩れるイグニス様の側に居ながら何が起きているのか、僕の頭では全く理解が追い付かなかった。 公爵様が現れ中に入る許可を得てイグニス様は保健室に入っていった。 僕はその光景を見送ってから保健室を後にした。 その後何があったのか教師から聞かれ、僕は見たことをそのまま話した。 教師は神妙な顔つきになり、僕は解放された。 グラキアス様の事は事故と説明があった…けど、アフェーレ王子の姿は見掛けなくなり、グラキアス様とイグニス様は暫く欠席が続いた。 きっとグラキアス様の看病をイグニス様がしているのだろう。 早く回復する事を願うばかりだった。 そういえば、事故の件を聞かれた時グレーの髪色の人も呼ばれていてそこで初めて彼の名前を知った。 彼はディレット フォリエ子爵家の人らしい。 今までは失礼な人と思ったいたが、爵位が上の人だと知ってしまうと余計に拒否権が奪われてしまった。 はぁ…知りたくなかった。 全てを話し終え教室に戻ると彼が待ち構えていた。 「放課後良いか?」 「…はぃ」 彼はそれだけ言って去っていった。 場所は聞かずとも僕達には個別室しかなかった。 放課後、個別室前の廊下で彼を待った。 「おぉ…入るか?」 「はぃ」 中に人がいないか慎重に確認しながら空いている個別室に入った。 先にソファに座られるとどうするのが正解か分からない。 僕から彼の膝の上?それとも隣?向かいのソファに座って良いのかな? 「どうした?座れよ。」 向かいのソファを指され意外だった。 膝の上に座らされるかと思った。 「なぁ、カランは何処から見た?」 何の話し? 「ん?何を?」 「あの日、王子とグラキアス様の…」 あっ…あれ…。 「あっそれは…アフェーレ王子が「お前は私のだ」と叫んで手を伸ばしていたのは見ました。」 「…決定的瞬間は見てねぇのか。」 「…はい…ぇっと…フォリエ様は?」 「…俺が見た時は、グラキアス様が倒れる瞬間だな。」 「…そうなんですね。」 「あぁ…」 その後もなんだか重い雰囲気でエッチな事はなく部屋に戻った。 同室の人に新たに恋人が出来ていて、部屋に入るのが気まずかった。 新たな恋人ってのも、以前僕に婚約しないかと迫ってきた人だった。 彼が軽薄と言うのもあるけど…多分先に興味を持ったのは同室のトゥレチェリイ フェアラートだと思ってる。 彼も男爵家で爵位が上の人との繋がりや婚約者を常に探していた。 僕が婚約を迫られた時彼も偶然居合わせ、爵位や彼の事をとにかく沢山聞かれた。 知り合ったというか、何度か会話しただけで知っていることはほとんどなく僕は深く考えず彼が子爵家だと伝えた。 それから、彼とフェアラートが親しげにしているところを何度も目撃した。 暫くして彼から「婚約の件は無かったことにしてくれ」と言われ、フェアラートと婚約したと噂で聞いた。 別に深い関係では無かったから悲しいとかは全く無かったけど、何となく気まずかった。 そう思っているのは僕だけで、彼は嬉しそうだったから気にしなくても良いのだろうけど…。 彼と婚約者がいるところに入っていくのは…勇気がなく気まずい雰囲気を何日も過ごしていた。 その間、グレーの髪色の彼とは毎日個別室で会っていた。 キスから次第に直接的なものになり今日はついに…してしまった。 多分僕はグラキエス様の事件から目を逸らしたくて受け入れてしまった。 その代償は大きくお尻にはまだ違和感がある。 腰を抱かれながら部屋の前まで連れてかれた。 どうして彼がここまでするのか分からない。 このグレーの髪色の子爵様は目立つ方の貴族だった。 貴族の中では爵位は下位に分類されるが、人気がある人らしい。 魔法が得意だったりもあるけど、逞しくて顔が良かった。 そんな人がどうして僕なんかを? 分からない。 「あのぅ…貴方ですよね?僕を保健室に呼んでくれたの?」 突然声をかけられた。 イグニス様だった。 隣にはグラキアス様も一緒だった。 「ぁっはい、そうです。」 「あの時はありがとうございました。」 「ぁっいえっそんなっ僕はなにも…あの時グラキアス様を保健室に運んだのは…ぁっあの人です。」 丁度彼が通りかかったので、呼び止めた。 「え?」 急に呼び止められ何か分かっていないようだった。 「俺を運んだって聞いたけど…」 「あぁ、たまたま通りがかっただけで…」 すぐに何の事か理解したようだった。 「ありがとうな。」 「いえ」 グラキアス様が相手でも態度を変えない姿に感心した。 「二人は婚約者ですか?」 「えっ?ちっ違います。」 イグニス様の突然の質問に驚いた。 僕とこの人が婚約者? 全然違う。 「恋人?」 「違います。」 恋人な訳がない。 イグニス様には僕達がどんな風に見えてるの? 心配になる。 「今口説いてるところです。」 「…ぇっ?」 口説いてる? 口説いてるって恋愛の意味で? 口説くってどんな意味だったっけ? …冗談だよね? 「わぁそうなの?」 「ぁっちがっ」 イグニス様は本気にしてしまい盛り上がってしまったが、実際は本当に全然違う、これではイグニス様に恥をかかせてしまう。 「本人には全く伝わってなかったみたいで…」 「………え?」 冗談?本気?どっち? 「ぁっ、僕の名前はエストレヤ イグニスです。お二人の名前を伺ってもよいでしょうか?」 「あっ、申し訳ありません。僕はカラン ベヌスタです。」 「俺はディレット フォリエです。」 「俺はアティラン グラキアスだ。」 はい、お二人の名前は存じております。 それからイグニス様は僕をみると挨拶をしてくれる。 僕は男爵家でなんの価値もないのに…。 フォリエ様はよくグラキアス様と会話していた。 あの性格の悪いフォリエ様とグラキアス様が仲良いのは信じられない。 あれからフォリエ様は僕の肩を抱いたり、腰に腕を回したりするようになり、フォリエ様を狙っていた人達の視線が僕に突き刺さるようになり怖かった。 彼を狙ったいる人達に男爵家や子爵家、伯爵家の人もいたので僕は視線を下げて歩くことが多くなってしまった。 僕達の関係って放課後の個別室だけじゃなかったの? 本当に僕は今、フォリエ様に口説かれてるの? 分からない…。 「ねぇ、いつからフォリエ様と?」 ほとんど会話をしない同室の彼から、話し掛けられた。 「いつ?…えっと…」 「もしかして二股かけてたの?最低だね。」 質問しておきながら僕の返事はどうでもよかったように見えた。 二股って誰と?子爵様と?フォリエさま? そんなのあり得ない。 以前の子爵様とは一切話したことはないし、フォリエ様とはつい最近なのに…。 「え?ちがっ」 「僕にもフォリエ様を紹介して。それとグラキアス様とイグニス様も。最近よく話してるよね?高位貴族に取り入る技、僕にも教えてよ。」 「…僕は取り入って…」 「無いなんていわないよね?自分だけいい思いしてズルいと思わない?」 「………」 ちっちがっ僕はそんなつもり…。 「ちゃんと紹介してよね。」 彼は言うだけいって一方的に話を終わらせてしまった。 紹介だなんて、男爵家の僕が公爵家や侯爵家の人を紹介なんて出来ないのに…。 どうしてこうなっちゃったの…。 そしてすぐに紹介のタイミングが来てしまった。 また、奪われちゃうのかな…ヤダな…。 ん?ヤダ?なんで嫌なんだろう…。 僕はフォリエ様の事…。 「ねぇ早く僕を紹介してよぉ。」 紹介の日は突然やって来た。 僕の知らない笑顔でフォリエ様を見つめている。 「ぁっ…えっと…彼は同室の…」 「トゥレチェリイ フェアラートです。」 僕がフォリエ様に紹介する前に自分から名乗っていた。 それなら僕は要らなかったのでは? 彼はフォリエ様の腕にするりと巻き付いた。 こうやってあの人にも近付いて婚約者になったのかな? 二人を見ていたくなくて視線を逸らし、離れる準備をした。 きっとフォリエ様は気付いてないし、僕よりも…。 「離せよ。」 「えっ?」 聞いたことの無いフォリエ様の低い声に驚き足を止めた。 「カラン行くぞ。」 「えっ?」 フォリエ様に腕を掴まれ引っ張られた。 なんだか怒っているようで僕は着いていくしかなかった。 「何だよ…あれ。」 「へっ」 「アイツ。」 「あっ…フォリエ様を紹介してほしいって言われて…」 「俺をアイツに押し付けたのか?」 「え?違います。」 「ならなんでだよ?アイツ、明らかにそういう目的で俺に近付いてきただろ?」 「………」 「カランもアイツの目的気付いてたよな?」 「………何となく。」 「それで俺を紹介したのか?」 「………」 「俺はカランの事口説いてるっつったよな?嫌なのか?だからアイツに俺を押し付けたのか?」 「ちがっ…その…口説くって…恋愛の意味?…本気?」 「恋愛の意味で本気で口説いてるつもりだ。」 「………」 「なんで紹介なんてしたんだよ。」 「…本当は…嫌…だったの…でも…断るの…怖くて…」 「はぁ…紹介するのは嫌だったのか?」 嫌…だったんと思う…。 「…ぅん」 「まっ今はそれでいっか。」 抱き締められて、僕も彼の背に手を回していた。 「…前にね…婚約を申し込まれたことがあったの…それを彼に話したら、いつの間にか彼と僕に婚約を申し込んだ人が仲良くなってて…それで…婚約してた。」 僕はなんでこんなこと話しているんだろう…。 わかんない。 「んあ?ならアイツは婚約者持ちなのか?」 「うん」 「危ない奴だな。他には何かされたか?」 「…グラキアス様とイグニス様を紹介してほしいって言われてる。」 「…そこに行くのか…紹介する必用はねぇな。あの二人には俺から気を付けろとは言っておく。」 「ぅん」 「…なぁ、その婚約を申し込んだ男とは?」 「ん?何も…なんで僕に婚約を申し込んだのかよく分からなかったの。話したこともないし、僕はただの男爵家なのに。誰かと勘違いしてるのかな?って思って保留にしてもらってた。」 「そうか…」 抱き締めあっていたが、終わりの時が来たらしく彼が離れてしまい、寂しいと思っている自分がいた。 顎を取られ唇が重なっていた。 個別室ではない場所でのキスは初めてだったけど、瞼を閉じて受け入れていた。 その後、フォリエ様とグラキアス様が話したらフェアラート様を二人に紹介することになった。 場所も人目のあるカフェテリアでと指定までされた。 僕は良いのかな?とは思いつつも二人にフェアラート様を紹介した。 紹介してからの数日グラキアス様とイグニス様の側にはフェアラート様がいるようになった。 だが、ある日突然三人の関係が終わりを告げた。 内容までは分からないが、フェアラート様がグラキアス様の怒りに触れ「二度と側によるな」と言われたことが一気に学園に広まった。  それが原因かは分からないがフェアラート様は婚約を解消され学園からも去ってしまった。 真実を聞こうとフォリエ様に聞いても、はぐらかされてしまった。 僕は二人部屋を一人で使うことになり、何故だかフォリエ様が入り浸るようになった。 それもあり、個別室には通わなくなり一人部屋になった僕の部屋で…。 そして今日、お父様からの手紙で僕にフォリエ様から婚約の打診があったことを知った。 「えっえっえっ」 と声に出して驚いていると、後ろから抱き締められていた。 昨日から…何日も前から泊まりに来ているフォリエ様によって。 「どうした?」 「あの…婚約の話が…」 「へぇ、誰から?」 「フォリエ様から…」 「返事は?」 「………婚約…したいです。」 「んっ良いんじゃね?」 顎取られ振り向かされキスしていた。 あの噂は本当だ。 グラキエス様とイグニス様をお手本にすると幸せになれる。 僕は今幸せです。

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