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Envelope - 2

 ――思ったより、見つかるのがはやい。  それでもまだ幸運だったのは、現れたのがこの部屋の主ではなかったことだろうか。 「父上の居室で何を? リュシアン」 「……貴方こそ、ここでなにを? 旦那様」  平伏する格好のまま、己が主人と仰ぐ男をリュシアンは文字通り肩越しに仰ぎ見た。  腕を組み、こちらを見下ろす青年の髪は炎に照らされ、くすんだ蜜色が鈍く光を反射している。不自然に撫でつけられた頭髪と厚手の白いローブ姿は、彼の主人がいままさに湯から上がったばかりであることをあらわしていた。 「失礼。貴方は一体なにを?」  リュシアンは訂正した。とても正気の沙汰とは思えなかった。外は綿雪降りしきる冬の夜だ。足元だけはしっかり雪道用のブーツを履いているが、まさか上着も羽織らずに、この雪の中を離れまで歩いてやってきたのだろうか。  従者の呆れるような声に、 「嘆かわしいことだな。〝元〟とはいえ、雇い主の居室に無断で忍び込むなどとても上級使用人のすることとは思えない。しかもあのリュシアン・ヴァローが、だ。倍の給金でもぜひ我が家に、と息巻く他家の当主どもがこの姿を見て一体どのような顔をするのか見物だよ。クレール伯爵家の威光も地に墜ちたと笑われるか……いや、これで遠慮なくその高飛車な鼻っ柱をへし折って自慢の逸物を突っ込んでやれると悦ぶ者もいるだろう。しかし、その方がお前には似合いかもしれないな、淫奔で、好色なリュシアン・ヴァロー」  主人はしたり顔で、長台詞を一息に吐き出した。  濡れた髪を振り乱し大仰に嘆いてみせる主人を尻目に、リュシアンは膝についた埃を払って何事もなかったかのように立ち上がる。慣れない体勢に柳腰が悲鳴を上げていたが、この主人にだけは不様な姿を晒すわけにはいかなかった。 「相変わらず、よく口が回るものですね。声も肩も滑稽なほど震えていますが。お寒いようでしたら邸に戻られてはいかがですか」  リュシアンの手が促す先にクレール伯爵邸がある。いま目の前に立つ青年貴族は、つい半年ほど前、父親であるクレール伯爵から所領と邸とを相続した。現在、伯爵自身は心身の不調を理由に宮廷仕えから退き、静養というかたちでこの離れに居を構えている。  ふたりがいるのは、その離れである。 「は、盗っ人猛々しいとはまさにこのことだ。お前が一体なにをしようとしていたのか……私が知らないとでも?」  青年、テオドール・ド・クレール子爵は執務机をぐるりと回り込み、埃を纏って鈍い光を放つ飴色のランプシェードを、つう、と撫でた。それを見るリュシアンの右眉がわずかに跳ね上がる。 「旦那様。せっかく清められたお身体でそのようなものに触れませぬよう」 「私の話を無視するな、お前は」

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