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Envelope - 4

 上の空で答えた。掃除夫。半年前まで伯爵の身の回りの世話をすべてこなしてきた自分に無邪気な笑顔で教えを請う少年は、大雑把な(たち)ではあるが、けっして不誠実な性質ではないのかもしれない。 「あの者にも守るべき人間がいるのだろうな。家族や――想い人」 「っ、」  冷えた指先が薄い耳朶(じだ)を掠めた。シャツのなかでしなやかなリュシアンの肉体が蠢き、記憶から掘り起こした少年の顔貌(かおかたち)に靄がかかる。  全身が、テオドール・ド・クレールに圧倒される。 「どうした、震えているぞ。寒いのか?」 「……すこし、っ」 「ローブ一枚の主人を差し置いて、従者のお前が寒さを訴えるのか」 「そのような格好をされているのは、旦那、さまの」  吐息が近い。静かで、深く、熱い息を首筋に感じ、抱かれた腰から肌が粟立っていく。  全身がしっとりと汗ばんでいた。炎に灼かれた肌から熱が逃げる。冷たい腕と濡れたローブに体温を奪われ、それを補うように身体の芯から新たな熱が溢れ出す。 「旦那、さま、おやめください」  力のない声が緩んだ唇からこぼれ落ちた。すでに下半身からは力が抜け、逞しいその腕に抱かれることでなんとか立位を保っている。  触れているところから全身の力を吸い取られでもしているようだった。押し戻す手は抵抗というにはあまりに弱々しく、しかしけっして男の劣情を煽ろうとしているのではない。  単に、身体が動かない。 「不真面目な掃除夫に最後のチャンスを与えようというんだ。どうせなら見えないところに見えてはいけないモノでも飛ばしてやれば、掃除のし甲斐もあるというものだろう」  ――この男は頭が湧いているのではないだろうか。  込み上げる怒りに目眩がした。人を散々好色呼ばわりしておいて、場所と状況を弁えずどこででも発情するような男は淫奔以外の何ものかと、脛のひとつでも蹴飛ばしてやりたい気分だ。  ローブに触れる手のひらに、なにやら固い感触を感じたのはそのときだった。  迷わず伸ばした指先を冷たい手がすかさず阻む。顔を上げると、一度見たら二度と忘れられない青みがかった紫色の瞳がリュシアンを静かに見下ろし、目の端でにやりと笑った。 「気づいたか? お前の捜し物だ」  時計は回る。雪は降り積もる。  ぱちん、と暖炉の火が爆ぜた。 「欲しければ――わかるだろう、リュシアン・ヴァロー」

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