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Envelope - 5

 舌に絡みつく体液を何度目かの嚥下で飲み下す。頬を包む手が、背けようとする顔を力尽くで引き戻した。両膝にフローリングの感触。主のはだけた腿へ、リュシアンはもう一度縋りつくように顔を埋めた。  主は伯爵の安楽椅子へ深く腰掛けている。小ぶりな頭が陰部で激しく上下するたび、椅子はギシギシと乾いた音を鳴らす。その不規則な鳴き声が、主の快楽を引きだそうと奮闘する従者の努力を何よりも物語っていた。  夜半を過ぎ俄に強まった風雪の声と、皮膚に吸いつく淫らな水音。そこに時折混じる男の嘔吐き。かねては過剰なほど雄弁に物事を語る主は、いまは一言も発しないまま口元に笑みを浮かべ、従者の黒髪をその指で掻き混ぜていた。  二度。口に含んだ牡の証がようやく満足した柔らかさになってはじめて、リュシアンは顔を上げた。唇は擦られ、紅を刷いたように赤く染まっている。飲みきれず、端から一筋伝い落ちる残滓を手の甲で拭った。  ローブのポケットに〝捜し物〟が見え隠れしている。隙を見て抜き取ることも可能だったが、それができない。見えない力に抑えつけられ、その一歩が果てしなく遠い。 「どこで、それを」  テオドールは行為の最中の会話を嫌う。それを承知の上で、リュシアンはせめてもの意趣返しにと声をかけた。案の定、鈍色の眉と濃い紫の瞳が不機嫌に歪んだ。 「なぜ私がお前に喋るなと言うか、わかるか」 「……男の喘ぎ声など聞いてもつまらぬからでしょう」 「あれこれと理由をつけて私の手を振りほどこうとする様が、いつも殺してやりたいほど不愉快だからだ」  ぐ、と喉を仰け反らされ、リュシアンの視界を消炭色の影が覆った。汚れた唇ごと吸いつかれると、定まらない視点がテオドールの暗い瞳を探して彷徨う。差し込まれた肉厚の舌が、脳を根こそぎ刮げ取るように思考を奪っていく。口淫だけではとうてい終わらせてくれそうもないと悟って、身体の中心でたしかな存在を示す快楽の粒がじくじくと疼きだす。 「ふ……っ」  長い口づけのあと、ようやく静かになった従者の耳朶を指先で弄びながら、 「こういうときぐらいしか、お前のその小うるさい口は閉じられないからな。少し快楽を与えてやればすぐ股を開く淫乱のくせに、抵抗する真似だけは一級品だ」 「わたくしは、痴れ者ですか」 「違うのか?」 すっきりと通った鼻梁から人を小馬鹿にしたような吐息が漏れる。雄々しく麗しい容姿も相俟って、底意地の悪さがなおさら際立つ嘲笑だった。 「しかし、いつまでも奉仕に身が入らないのは考え物だな。いいだろう。お前がいま疑問に思っていること、今ならすべて答えてやったうえでゆっくり犯してやる」 「旦那様。それよりも、ここを離れませんとマリユス様が」  伯爵が戻られます、と紡ぐ口へ前置きもなしに指が差し込まれる。咄嗟に身を引き白濁に濡れた喉奥を守ると、追いかけるテオドールが獣のような低い唸り声を一声上げ、 「……去りたければ黙って聞け。そして、さっさと尻を出せ」  溢れ出す怒気も露わに、禍々しいほど赤い封蝋の施された一通の手紙をリュシアンの眼前に振って見せた。    ――〝わたくしたちの愛の行方と、あなたを悩ますもうひとつの懸念を取り払ってくれる、素晴らしい提案〟  榛色の瞳が白い封筒の上をなぞる。そして蝋に象られた〝S〟の文字を捉えた瞬間、脳裏にあの忌々しい女の媚びた微笑がまざまざと蘇り、真っ赤に弾けた。

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