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Envelope - 8
シャツとガウンは、袖と袖とをお互い絡め合い、打ち捨てられたように床へ横たわっていた。風の音以外、一切を排除した密閉された部屋に、残された酸素を奪い合うように男たちの荒い息づかいが響いている。
いますぐ部屋の主が現れるかもしれない場所で、男たちは惜しげもなく裸体を晒し、汗と唾液にまみれた身体を、空気の層一枚挟むのも惜しむように擦り合わせていた。
テオドールの額に滲んだ汗を拭い、赤赤と照らされた首筋を辿りながら、眼窩の奥、濃紫の夜空に輝く太陽のような揺らめきを飽くことなく眺める。幼い頃より抱き続けてきた、果てない闇。そのなかで唯一、褪せることなく輝き続ける光を、この瞬間だけは自分のものにできる。肉体の快楽よりも、リュシアンにとってはそれが重要だった。
瞼に唇を落とす。舌に感じる丸い感触を、いっそ吸い出せてしまえはしないかと力を込めると、それを咎めるように指先が脇腹を突いた。
「あ、っん」
反った背に稲妻のような快感が走り抜ける。全身の皮膚を敏感に作り替えられている身体は、くすぐったささえ容易く快楽に変えてしまう。
抗議の意志を込めてテオドールの筋の浮いた手の甲へ爪を立ててみるが、力強い腕に絡め取られ、これ以上の悪戯は許さないとばかりに手首をひとまとめに掴み上げられた。
「男を誑かす力の秘密は、人を喰らう魔物だからとでもいうわけか?」
「なにを……あっ」
湿った谷間に長い指先が潜り込んだ。愛しい男の裸体を前に期待を隠しきれない身体が蕩け、普段は固く閉ざされた場所が自ずと緩んでいく。
傷をつけないようにか、慎重に爪が会陰を掠めていくと、濡れるはずもない場所に熱いぬめりを感じた。いつの間にか主の手に握られていた香油は、伯爵がマダムと睦み合うための私物だろうか。テオドールからの容赦ない執着に奪われていた理性が、俄に意識を取り戻した。
主の手から茶褐色の小瓶を奪い取る。床に放られた瓶の口から、音もなく油が流れて絨毯に黒いシミを作る。
「テオ」
指を差し出し、傲然と言い放つ従者の言葉に、主は薄らと微笑みすら浮かべ、従った。折れそうなほどに細い指は、熱い口内に含まれ、転がされる。
充分に濡れた指を引き抜き、リュシアンは腰を突き出す。露わになった窄みに熱度の高い視線を感じながら、その場所を慎重に揉みほぐしていった。
やがて3本もの指が楽に出入りしはじめると、暗く影を落とした紫の瞳が、荒い呼吸とともに左右に泳いだ。もういいだろう。そう訴える切なげな顔に、ぶるり、と心臓が打ち震える。
「ん」
ぐ、と尻を優しく割り開かれ、猛々しく天を向いたものの上に蕾が宛がわれる。大きく息をついて、リュシアンは自重でテオドールを飲み込んでいく。
無理だと訴える肉体と、この男を受け入れたいという想い。勝ったのは、ただひとつになりたいという切実な願いだった。
「ああ……おおき、い、……」
内臓を押し上げられる感覚は、行為に慣れた身体にも恐怖を与える。しかし、いま肉体を貫いているのが愛しい主だと思えば、その圧迫感をこそ自分は待ち望んでいたのだ。
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