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Envelope - 11
その日も男たちの責めは執拗だった。
手首と膝とを左右それぞれに紐で縛られ、床に転がされたまま代わる代わる犯されたあと、ようやく解放されたときには時刻はとうに深夜を回っていた。
縄の痕の残る手足に力を込め、男たちを門の外へ送る。身体の隅々に塗り込められた欲の証をすぐにでも洗い流したかったが、伯爵達の居室以外、邸の火はすべて落ちている。水を浴びようにもこの気候だ。秋も深まるこの季節に川へ入るわけにもいかず、今晩はテオドールの元へ戻ることを諦めた。汚れた身体は翌朝、外の水で清めることにした。
廊下は乾いた冷気に覆われていた。汗と体液に濡れた肌が容赦なく体温を奪い、ふとテオドールの熱い手指が恋しくなってリュシアンはきつく拳を握った。
部屋はすぐそこだ。角を曲がって、身体に染みついた歩数を刻もうとしたとき。
そこにいま一番会いたいと願い、そして一番遭ってはならない少年の姿があった。
部屋まで送るというリュシアンの申し出を、少年は沈黙によって撥ね付けた。まだ微熱が続いているのか、重たげな瞼の上で長い睫毛がぴくぴくと震えている。少しだけ見上げる先にある視線はスリッパの先をじっと眺めたまま動かない。
重たい沈黙に暗闇の濃度が増した。
そのとき、テオドールを包む空気が大きく震えた。全身を掩っていた緊張がほころび、青白い眉根に寄せた皺がいっそう深くなった。
いけない。
咄嗟に伸ばした手に、さきほどたしかに拭ったはずの男たちの欲望の証が見えた。
脳内を警鐘が駆け巡る。全身が、彼に触れてはならぬと訴えてくる。
まだ肉の欲を知らないこの少年を汚してはならない。汚したくない。その想いに、リュシアンの身体はもっとも優先すべきものを見失った。
支えるもののないテオドールは大きく身体をくの字に曲げ、破裂するような咳を何度も繰り返す。咳き込む声に嗚咽が混じり、吸い込む息に風音が聞こえはじめる。苦しそうな姿に胸が痛んだ。だが、目の端に滲む涙を拭ってやりたくても足がすくんで動けない。
躊躇う間にテオドールは呼吸を取り戻し、最後に大きく肩で息を吐いた。袖で濡れた口元を拭うと、呆然と立ち尽くすリュシアンを憎々しげに睨み付ける。
心臓に錆びた鏨を打ち込まれたようだった。固く、冷たく、平たい金属のような視線がリュシアンの心臓を割り砕き、鋭く抉った。幼い我が儘から責めるような視線を向けられることはある。しかし、ここまではっきりとした憎悪の瞳を向けられたことなど、一度もない。
「なにをしていた」
どろりと垂れ堕ちるような重たい声だった。 全身を脂汗が滲み、焦りと恐怖で息が詰まった。
それは、はじめて聞く“男”の声であった。
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