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7-1
翌朝。
結局いつも通りヒヤマはほぼ眠れず、リビングでテレビを見ていた。普段は研究所に篭り切りなので、テレビはあまり見ない。
朝から、ニュースは暗いものが多かった。眠れないことで色々がうまくまわらなくなっているのだろう。どこかの国の暴動や、この国での事故や不祥事、テレビはそれをどんどんと食わせてくる。腹がいっぱいになって電源を切ろうとした頃に――
「おはようございます」
そう言ってコウダが起きてきた。テレビの時刻表示は朝の七時。彼は普段通り眠ったのだろう。
「おはよう」
コウダは寝ぼけた眼の下をこすりながら、
「朝ごはん、どうしますかね」
と言った。
「そうだな」
ヒヤマは冷蔵庫の方に視線を向ける。その中はまだもちろん空っぽだ。
「何か買いに行こう。朝からやっているスーパーがあるから」
簡単に身支度を整えて、二人で歩く。朝に外を歩くなんて何年ぶりだろうとヒヤマは思った。不眠気味の相談者には朝の散歩を勧めているのに。
昼にはかなり暑い時期だったが、この時刻は割に快適だった。
スーパーについて、コウダがカートを取った。エアコンが良く効いて、中に入ると寒いくらいだ。
このスーパーに来るのはいつぶりだろう。そもそもスーパーというものにここしばらくお世話になっていない。
入り口近くの生鮮食品コーナーには、野菜や果物がずらりと並んでいる。その光景さえ新鮮に感じた。
コウダはそれらを手に取って、一つ一つ新鮮かどうかを見極めているようだった。
これでは選びにくいだろうとヒヤマがカートを引き継いだ。コウダは売り場を回りながら、慣れた感じで食材などを選んでいく。
経済観念がしっかりしていると見てわかる買い物だった。
ヒヤマはカートを押しながらなんとなく周囲を見回した。
人々の生活風景。
アイス売り場に群がる子供たち。政治のことも近所の住人トラブルもなんでも話しているおばちゃんたち、のんびり歩く老人。おそらく皆あまり眠れていないのだろう、疲労の色が濃い。それでも、そこには生活がある。
気がついたらカゴは満杯になっていた。
その中身ははた目に見てもかなり健康的だと分かるラインナップで、普段から栄養ドリンクやサプリメントに頼っているヒヤマは感心しきりだった。
今日の会計はコウダが出すことになった。そして二人は家に帰ってトーストを焼いた。ハムとチーズを乗せた簡単なものだ。それだけでも、家の中においしそうなにおいが漂っている。この家に初めて漂う香りだ。
「いただきます」
二人の声が揃った。
「うん、おいしい」
頬張るコウダにヒヤマは尋ねる。
「今日は仕事?」
「休みです。ヒヤマさんは」
「ああ、今日は研究室だよ」
嘘だった。本当は非番だ。
「夜は帰ってきますか」
至って普通にコウダは訊いた。自由に過ごしたいから帰ってこないでほしいという意味はまったくないのだと、ひねくれ者のヒヤマにもわかるくらい、普通の聞き方だった。
何時に帰ってくるか、確認しているだけ。
とはいえ、もちろん帰ってきて欲しいというわけでもないだろう。
「今日はちょっと、わからないかな」
だからヒヤマはそう言って、その日は結局研究所に泊まった。
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