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9-1

 翌朝、逃げ出すようにヒヤマは早朝に家を出た。  研究室で仕事を始め、少し気が紛れて昼食のため研究室を出た矢先、 「コウダトモキって人、来てますか」  受付でそう問い合わせる青年を見かけた。明瞭な声だ。  短い、明るい色の髪の毛。綺麗な目。表情が豊かなのだろう、今も顔に『困っています』と書いているのではと思うくらいに眉根をきゅっと寄せていた。しかし、その目元には眠れていない人間特有の沈殿した不快感が見て取れた。そして彼は、まだそれに慣れていない。  ヒヤマは直感した。彼が、きっとコウダの元同居人――ミナミダだろう。  ヒヤマは彼のもとへ近づき、話しかけた。 「ミナミダさん、ですか」  彼は名前を呼ばれて振り返り、『あんた、誰?』と言うような目でヒヤマを見た。

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