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ミナミダはだんまりを決め込んでいる。喫茶店に行きましょうと言ったのは彼の方なのに。
無言で、ヒヤマはミナミダを観察する。何度か眠たそうに顔を歪めている。やはり、彼はまだバクを飼い慣らせていないのだ。
夏がようやく収まり始め、ほどよい気温だったのでテラス席に二人で座った。
目の前の黙っているミナミダにヒヤマもどうしたものかと言葉を探しているが、ちょうど良い話題も見つからない。
というよりも、当たり前にコウダの話がしたいのだろう。
「あいつ、前から研究に協力してるって言ってて」
ようやくミナミダは話し出した。
「昨日うちに来たんですけど。荷物、持ってかなかったのもいっぱいあったんで」
そう話す彼の隣には、大きな紙袋が置かれている。中身がかなり詰まっているのか、楕円形に膨らんでいた。
「昨日、あんまりちゃんと話できなかったし。これ、届けたかったし。……俺、ストーカーじゃないっすよ」
ミナミダはグラスを持ってストローでコーラを啜った。
「あいつ、元気ですか。ちゃんと寝れてますか?」
ストローでコーラをかき混ぜながらミナミダは言った。さりげない風を装って、本当はそれを気にしているのがありありと伝わってきた。
「変なこと言ったから、寝れなくなってたら悪いなって」
ヒヤマは思う。自分が相手に影響を及ぼせると思うことは若さゆえの傲慢だろうか。それとも、そこに愛があると信じているからか。
「ちゃんと眠れていますよ。変化はありません」
冷たい声が出てヒヤマは自分に驚いた。その雰囲気を察知したのか、ミナミダが俯いたまま視線だけをヒヤマに向けた。そして言った。
「あんた、あいつの何なんですか?」
その声には、間違いなく執着の色があって――何かに執着している、執着できる彼のことをヒヤマは眩しく思った。
そしてそれは、意外に鋭い質問だった。自分とコウダの関係をどう言い表せばよいのか、適切な言葉は、ヒヤマの中にはなかった――浮かんでくるのは、ひどくよそよそしい言葉か下世話な言葉だけ。
「今、研究所の人のところにお世話になってるってトモキは言ってました。あなたのことですか?」
そこまで伝えてあるのかとヒヤマは思う。
返事がないのを肯定と受け取ったようで、ミナミダは続けた。
「トモキには悪いことしたなって思ってます。俺、正直余裕がなくなってて。――でも、俺、まだトモキのこと諦めてないです」
そう言ってミナミダはヒヤマを見た。
「トモキに今一緒に住んでる人は恋人かって訊いたら、そうだとは言いませんでした」
その言い方には、間違いなく攻撃の意思があった。それは乱暴な宣告だった。
――あんたとトモキは恋人じゃない。
しかしヒヤマは動じなかった。当たり前に彼らは恋人ではなかったからだ。
ヒヤマが動揺しないことが、ミナミダは気に入らないようだった。
そしてミナミダははっきりと正面からヒヤマを見た。
「そしてあなたもトモキが恋人だとは言わない」
そう言われ、ヒヤマも正面からミナミダと向き合った。ミナミダは唇をきゅっと閉めて、ふぅっと鼻から息を吐いて自分を少し落ち着かせてから言った。
「それなのに手を離す気はなさそうだし。そういうの、卑怯ですよ」
しばらくミナミダとヒヤマは視線を向け合って――そしてヒヤマがすっとその視線をおろした。ミナミダが吐き捨てるように言った。
「俺は諦めませんから」
それじゃあ失礼しますと言ってミナミダは伝票を手に持った。俺が払っとくんで、と言う彼にヒヤマは「ありがとう」と言った。それで自分もどうやら怒っているらしいと自覚する。
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