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「ユウトに会ったんですか」  帰宅するとコウダが待っていた。コウダは特段いつもと変わった様子もなかったが、手には見慣れないスマホが握られていて、おそらくそこにミナミダから連絡があったのだろうと察せられた。 「あいつ、何か言ってましたか」 「いや、特には」  細かく言えば色々と言われた気もするが、大きく括れば何も言われていないに等しいとヒヤマは思った。  ――あなたにその気がないのなら。  ミナミダの言葉を思い出す。その気がないのではなかった。今、ヒヤマにはコウダのことを好きだという明確な自覚があった。しかし、この奇妙な同居人が自分に対してどういった感情を抱いているのか、それがまったくわからなかった。仮に好意に近いものを持っていたとしても――そういう関係になることが、なろうとすることが正解だとは限らない。ヒヤマは自分がコウダにとって良い相手だと思っていない。  ――それなのに手を離す気はなさそうだし。  そんなことはないとヒヤマは思う。自分は確かにコウダの手を握ってはいるかもしれない。だけれど、その手にはほとんど力はこもっていない。  こめられない。力をこめたら、コウダは自分の気持ちに気づいてしまう。  彼を困らせたくなかった。好意のない相手の家に居候するのは苦痛だろう。それをしたら、彼は出て行ってしまうかもしれない。  ヒヤマはコウダに出て行って欲しくなかった。近くにいて欲しいというのももちろんあるけれど、もっと単純に、まず何よりも彼を助けてあげたかった。  そして告白することは明確にその目的に反する。  だからコウダはいつかヒヤマの手をすりぬけて、ミナミダの手を掴んでここからいなくなってしまうかもしれない。  ――俺は諦めません。   それは仕方のないことなのかもしれない。  きっと、その方がコウダにとっては良いのではないか。  でも。  だとしても、好きだと言いたかった。  しかし、今の自分がそれを言うことは負担になる。だからヒヤマは言えなかった。  ヒヤマはミナミダのことを思い出す。コウダが一緒に住んでいた男。  ヒヤマは自分がもっと強く彼に反感を抱くだろうと思っていたので、思いの外そうではないことに驚いていた。確かにミナミダには敵意を向けられたし、色々と失礼な言い方をされたと思うが、ヒヤマはそれに対してそれほど怒る気になれなかった。  むしろあれは、愛情の裏返しだろう。  ミナミダはコウダを愛しているのだ。  もちろん愛があればすべてうまくいくということではない、人間には相性があり、うまくいかない場合の方が多い。  ――だけれど、愛がないよりはずっといい。

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