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「迷惑、だったね」
ヒヤマは後悔した。
コウダは黙り込んで、目を下げている。
ヒヤマは急に言い訳をしたくなった。立ち上がってコウダに背を向ける。顔を見ないように。
「僕にそう言われたら困るだろうと思ったんだ、こんな僕にそんなことを言われて、君がここに居づらくなったら悪いから――だけど、どうしても伝えたくなってしまって、ごめんなさい、申し訳ない」
「ヒヤマさん」
呼びかけられヒヤマが視線を戻すと、コウダがヒヤマを見つめていた。
「謝らないでください」
ヒヤマは眉間に皺を寄せた。何を言われるのだろうと思ったから。
コウダは、ヒヤマの予想と違う言葉を言った。
「嬉しいです」
コウダは立ち上がってヒヤマの正面に立った。
「すごく、嬉しいです」
そしてまっすぐヒヤマを見つめてくる。間違いなく正面から。
ヒヤマは呆気に取られて理解ができない。何を言っているんだろうと思った。
だからまた思わず目を逸らそうとして――コウダに両手で顔を掴まれた。そして彼は言った。
「俺の方見て」
まっすぐ自分を見てくる黒目。それがヒヤマの視界の全てだった。他のものは何も見えない。吸い込まれたみたいだ。そして言われる。
「もう一度好きだって言ってください」
何かにすがるように。
「俺に、信じさせて」
それを聞いてヒヤマの中から言葉がこぼれた。コウダに引き出されたみたいに、素直な気持ちが溢れ出した。
「……好きだ」
ヒヤマは理解した。彼を見返さないといけない。
まっすぐ彼を見つめないといけない。
そこから逃げてはいけない。
「僕は君が好きだ」
コウダは微笑んだ。とても嬉しそうに。
「俺もです」
そう言ってコウダはゆっくりとヒヤマに顔を近づけて、二人の唇がやがて重なった。
おずおずと差し出したヒヤマの舌を、強引にコウダが絡め取った。思わず力が抜けるヒヤマの体を、コウダがぐいと抱き起こして支えた。ヒヤマは逃げることができない。そして逃げようと思っている自分に気がついた。
なぜ逃げるのか。
だって、こんな。
すごく欲しいものを誕生日でもないのにプレゼントされて、家の中にあるそれを自分のものと思えないときみたいに、ヒヤマの心は落ち着かなかった。
だけれどそんな不安を、コウダが乱暴に拭い去る。
「ヒヤマさん」
優しく囁く声で。
「好きだよ」
体を撫でる手で。
「大好き」
嬉しそうな声色で。
「……好きだ」
ヒヤマが言う。不安そうな声。
「僕も、大好きだよ」
その声はまだ不安そうだ。
だけど絞り出す。
なぜなら、それが欲しいから。欲しくて欲しくてたまらないから。
「ずっと、そばにいて欲しい」
「きみはとてもあたたかくて」
「僕は君が大好きだ」
優しく頬を舌がなぞって、耳元に辿り着いて、
「嬉しい」
そう囁かれる。ヒヤマはそのままソファに寝かされ、その上にコウダが覆い被さっている。ふうっと息を吐いてコウダはシャツを脱いだ。晒されたその体は彫刻みたいに美しかった。
「きれいだ」
思わずヒヤマは言葉を漏らす。
「すごく、すごくきれいだ」
そう言いヒヤマがおずおずと伸ばした手を、コウダが自分の元に手繰り寄せる。
「もっと、触ってよ」
ヒヤマは不器用に指先を動かして、コウダのその筋肉の稜線を辿っていく。探るように。
「いいね」
コウダの顔がわずかにあからんで、興奮しているのだとヒヤマは理解する。そうしている間にコウダはヒヤマのシャツのボタンを外し終えていて――そのまま、ヒヤマの体に舌を這わせた。
視界が歪みそうなほどの幸福感で、ヒヤマは自分の声が漏れていることにしばらく気づかない。口の中にコウダの指が伸びてきて、無心でヒヤマはそれをしゃぶった。
「ヒヤマさん」
言いながらコウダは指を外し、自ら舐めた。
「ヒヤマさん、ごめんね、俺我慢できないかも」
そしてコウダがズボンのベルトを外しながら言う。
「痛くないようにするから」
そう言いヒヤマのズボンもおろした。ぐい、とヒヤマの足を持ち上げて、コウダの指がそこに触れて――ヒヤマの声が裏返った。コウダは指をゆっくりと入れる。
「大丈夫?」
優しい声だった。
ヒヤマは頷く。
「じぶ、自分で……してたから」
コウダは珍しく驚いた顔をした。
「え、ヒヤマさん――自分でしてたの?」
改めてそう問われて、ヒヤマはあまりの羞恥にソファのクッションで顔を隠した。
「ごめん、ごめ」
「すごい。最高だよ」
コウダはそう言って、指を挿れたままヒヤマに問いかける。
「どうしてほしいの」
「どういう想像してたの」
「どういうこと、してほしいの」
「全部、全部してあげる」
それはいやらしくヒヤマを攻め立てるというのではなく、本当に欲しいものをあげたいという言い方だった。
――愛されている。
今自分は愛されているとヒヤマは思った。
爆発しそうな感情にヒヤマが言葉をなくしていると、コウダがヒヤマを抱き寄せてぽんぽんと背中を撫でた。ヒヤマはそれに応えたくてコウダの首筋についばむようにキスをする。
「すご……」
呟くようにコウダが言い、ヒヤマに挿れている指を数を増やした。ヒヤマは声を漏らす。その甘い声がコウダに火をつけた。
「ヒヤマ、さん」
コウダがヒヤマの両足を抱えてヒヤマのそこに先端をあてがった。
「痛かったら、すぐに言ってね」
ヒヤマは痛くても絶対に言わないと思った。だってずっと、こうしたかったんだから。死んでも離さない。絶対に離さない。
ゆっくりと、コウダが入ってくる。
ヒヤマは両足をコウダに回してぐいと抱え込んだ。コウダは前に倒れ込んで、ヒヤマに腰を打ち付ける。
「好き」
コウダが言った。
「好きだよ」
今度はヒヤマがコウダの顔を両手で掴んだ。
「僕も」
そう言い、唇を重ねる。
コウダが中を出入りするたびに、押し出されるみたいにヒヤマの口から声が漏れた。
気持ちいい?
ふわふわした、真っ白な意識の中でそう訊かれて、
すごく気持ちいい。
そう答える。
気持ちいい。すごく、すごく。
……良かった、嬉しい。
遠くからそう聞こえて、彼が嬉しくて自分も嬉しい。
彼はヒヤマの体を優しく撫でて、その手がヒヤマの体にへばりついた何かを綺麗に拭い去っていく。ヒヤマは自分もそうしてやりたくて、彼の顔に手を伸ばした。
コウダは微笑んだ。微笑んで、ヒヤマの指先にキスをした。それで自分は間違ってないとヒヤマは確信した。
「一緒に」
そう言いながら、ヒヤマの硬くなったところに手を伸ばし、優しく触った。それだけで思わず裏返った声が漏れて、視界の向こうのコウダまでぽーっとした顔になった。
「すごい、ほんとにすごい……」
感動したように言って、触りながら腰の動きを早めていく。
「大丈夫だよ、怖くないから」
そう言われて、ヒヤマは自分は何かに怯えていたと思う。だけど大丈夫だ、彼が大丈夫だと言っているんだから。
彼は腰の動きを早め、ヒヤマの高ぶりに合わせ、大きく体を震わせた。
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