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「――おっきいベッド買いませんか」
行為が終わって、体についた体液を拭いながらコウダが言った。
ヒヤマもそれについては検討していた。しかし提案は躊躇っていた。
「それで、一緒に寝ましょうよ。そこで」
「でも」
「俺は眠れますよ。知ってるでしょ、ヒヤマさんなら」
そう言われてはヒヤマも断る理由がない。本当はヒヤマも毎日一緒に眠れたら良いと思っていたのだから。
そして次の二人の休みの日。二人は家具屋に向かった。
相談して、せっかく買うなら良いものにしようという結論になった。その方がもしかしたらヒヤマさんも眠れるかも、とコウダが言ったのだ。どうせ自分は眠れないとヒヤマは思ったが、コウダだって寝心地が良い方が良いに決まっている。だから反対はしなかった。
どこの家具屋で買おうかと話していると、コウダが本棚を指して、「あの本棚、なんか素敵ですよね。あれと同じところとかどうですか?」と言った。
すんなりと見にいく家具屋は決まった。
専門店に二人で入り、スーツ姿の店員に予約名を告げる。
店員は慣れた様子で二人を店内に案内した。
ベッドだけがずらりと並んだフロア、店員が細かく違いを案内してくれる。コウダは座ったり寝転んだりして感触を確認している。ヒヤマはなんだか気恥ずかしくて、立ったままそれを見ていた。それだけで満足だと思った。しかし。
「ヒヤマさんも確認しましょうよ」
そう言って腕を引いてヒヤマを座らせる。確かにそのベッドはとても良さそうだった。スプリングも、マットレスも上等だ。
コウダが寝転がったので、隣にヒヤマも寝転がる。
「良い感じですね」
隣でコウダが言う。これから毎日この景色が見れるのだと思うと、ヒヤマの心は踊った。
「うん。いいと思う」
「これにしますか?」
コウダが起き上がってヒヤマに聞いた。
「そうしよう。これで、お願いします」
店員は笑顔で頷く。
素材なども選べるとのことだったので、あの本棚と同じ木材を使うことにした。写真を撮っていたので、すぐに店員もなんの素材だかわかったようだった。
「申し訳ありませんお客様」
会計前にそう言われる。
「素材の変更になりますと、少し納期が伸びてしまいまして。そのままの素材でしたらすぐに納品できますが、いかがなさいますか」
ヒヤマはコウダを見た。
「せっかくだし、待ちましょう」
コウダは悩まなかった。
「そうだね」
そして二人で会計した。
思いの外高くなったので、しばらくは節約をしようと外食をやめて、スーパーに寄って家で一緒に夕飯を作った。
「楽しみですね、ベッド届くの」
小さなベッドで向き合いながらコウダが言う。
「狭いのも、それはそれでいいですけどね」
「……そうだね」
ヒヤマは起き上がった。窓の外には夜景が広がっている。
その景色が、いつもより鮮やかに見えた。
眠りが、夜が違う価値を帯び始める。
ベッドに座るヒヤマを、後ろからコウダが抱きしめる。ただ黙って二人で夜景を見ていた。
――夜は恐ろしくないのかもしれない。
そう思えた。
コウダの温かな体温を背中に感じて、ヒヤマはゆっくりとコウダの腕を握った。筋肉で硬いその腕は質量があって、生きているぬくもりを確かに感じた。
――これから少しずつ、恐ろしくなくなっていくのかもしれない。
そう思えたことが嬉しかった。
夜が怖くなくなれば。
もしかしたら、自分も――。
――そう思えた矢先のこと。
仕事から帰るとコウダが言った。
「母が、亡くなりました」
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