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 葬儀から二週間ほどが経った。  夜、ヒヤマは眠れずに、いつものように部屋にわずかな明かりを灯して本を読んでいた。  普段あまり読まない小説に集中しているうちに、0時をまわってしまったようだ。  顔をあげ一息ついたそのタイミングで、扉にノックの音が響いた。  返事をすると扉が開く。コウダが顔を覗かせた。 「まだ起きていますか」 「もちろん」  ヒヤマが冗談めかして言うと、コウダは安心したように笑った。 「今、いいですか。なんだか――眠れなくて」  そう言って目尻を掻いて部屋に入ってくる。  ここ数日、おそらく彼はうまく眠れていないのだろうとヒヤマは気がついていた。  壁の向こうにはいつもの静まり返った気配がなく、何か落ち着かないようなものがあった。トイレのために部屋から出ると、コウダの部屋からわずかに灯りが漏れていることもあった。  ヒヤマはコウダの睡眠データを確認しようと思ったけれど、しなかった。きっとそれは一過性のものだろうと考えたからだ。今はまだ、落ち着かなくて不安定なのだろう。  ベッドもまだ届いていない。到着が遅れると連絡があって、むしろちょうどよかったと思った。今彼の睡眠環境を変えることは、間違いなく悪影響があるだろう。  ヒヤマがベッドに座ると、コウダはその隣に座った。コウダは少し重たげに頭を傾けて、眠たい人特有のぼんやりした目をしている。瞼が重そうだ。ヒヤマは話しかけるタイミングを見計らう。  このまま眠れればそれが一番良い。  そう思って黙って見つめていたが、やはり彼はこちらへと戻ってきた。 「すみません、ぼーっとしてました」 「大丈夫。眠たくなったらそのままここで寝て良いから。気にしないで」 「……はい」  明日は仕事だっけ? と聞くと、いえ、休みです、との返事。  良かった。このまま仕事に行くのは危ないかもしれないと思っていた。  そう安心して、安心した自分に驚く。  自分が、コウダが不眠者になる可能性を現実的に検証していたことに気づいたからだ。  まさか。ヒヤマはあの安定したコウダのグラフを思い出す。あのグラフを刻むことのできる彼の睡眠が乱れるはずがない。  ヒヤマは自分を否定したかった。  しかし、うとうととしている彼に何かを言うのをためらわれて、そっと立ち上がって白湯を注いで戻ってくる。 「ありがとう、ございます」  コウダはそれを少しずつ飲んだ。 「あったかい」  コウダの目元には明らかに疲れが見えて――もしかすると、自分の想像するよりもコウダは眠れていないのかもしれないとヒヤマは思う。だけれど、それを信じたくない。  ヒヤマは体を傾けて、そっとコウダに寄り添った。 「こっちに来ちゃだめだよ」  思わずヒヤマは言い、自分の言葉に慌ててコウダを見た。コウダは目を瞑って、浅いながらも眠りに入ったようだった。  ヒヤマはコウダをベッドに寝かせて、コウダのかすかに痙攣する瞼を見た。わずかに声を漏らすコウダの手を握った。 「大丈夫」  そう言い聞かせる。  ヒヤマはコウダの目から涙が流れたら部屋の外に出ようと思ったけれど、しばらく待ってもそれは訪れず――安らかに寝息が漏れたのを確認すると、そっと部屋を出てリビングへ向かった。

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