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 薬の開発というのは簡単なものではない。人体への影響の大きさ、副作用など、様々な検証が必要となる。睡眠に関わる薬は、依存性などの問題もある。  ヒヤマが開発した涙を促すための薬は『促涙薬』と呼ばれた。  それは直接的に眠りに作用する薬ではなかったが、それを処方することで被験者の不眠が軽減することが確認された。というよりも、既に確認されていた。  ヒヤマはあの日データを見た。ドライアイ改善のために涙を促す薬には、『副作用:眠気』としっかり書かれていた。  今回の『促涙薬』はそれを援用したものだ。  すでに開発され実用されている薬が基本になっているので、データは既にある程度揃っている。だから、比較的実用化も遠くない。 「おはようございます。よく眠れましたか?」  ヒヤマはベッドに眠る被験者に呼びかけた。彼は上半身をもぞりと起こして、目元を触ったあと、 「……おかげさまで」  被験者――ミナミダはそう言って、目尻から溢れた涙を拭り、気まずそうに目を逸らした。  泣いたのを見られて恥ずかしいのだろう。おそらく、それ以外にもいろいろとあるのだろうが。  ミナミダは治験に協力してくれていた。ヒヤマが担当だと知った時の苦そうな表情とは裏腹に、彼は検査に協力的だった。  ヒヤマの予想通り、促涙薬には睡眠改善の効果が認められた。  従来の睡眠薬などに比べて依存性も格段に低く、処方する上でのアドバンテージも高い。  しかし、それで問題が即解決とはいかなかった。  現状、この薬が効くのは軽度の不眠者のみに限られ――深刻な症状の人々には効果がほぼ認められなかった。  ミナミダが腕を差し出し、ヒヤマは計測器を外していく。 「あいつはどうですか」  ミナミダが聞いた。今度は、ちゃんと訊いている口調だ。 「――眠れていますか」  ヒヤマは視線を落とし、静かに首を振る。  コウダは、未だに不眠の中にいる。

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