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第3話

 三人のスケジュールを合わせるのは正直困難だった。その日をやっと見つけた頃には、俺と国仲の映画の撮影はクランクアップしていた。その後に続く宣伝の仕事が小刻みにあり、その間を拭って、一日だけ都合が付く日を見つけることができた。  湊にはラインで、都内のバーで、二人で飲もうとだけ連絡をした。すぐに既読にはなったが、返信が中々来ず、俺は密かに不安を感じていた。多分、また週刊誌とかに狙われることを危惧して、軽はずみに外で会う誘いには乗らないのではないかと。でも、湊から『了解』と返事が来たのは翌日のことだった。  俺は、俺と湊がバーで飲んでいるところに、偶然を装って国仲が現れるというシナリオを作った。国仲はそれを承諾し、『俺の演技は自然だから絶対にバレないよ』と笑顔で言った。  湊には、国仲がバイセクシャルなこと、俺にモーションをかけていること、俺が国仲にゲイだとバレていることは内緒にしている。勘の良い湊は、もしかしたら国仲が俺を好きなのではないかと疑っているかもしれない。そんな湊の気持ちをもっと揺さぶりたくて、俺はこんな茶番を考えてしまう。そんな自分に呆れながら、俺はバーに先に来て、湊が来るのを待った。  俺は変に興奮していて落ち着かず、待ち合わせ時間の四十分前に来てここに座っている。 流石に待ちくたびれたが、そんな時間も俺は、自然と湊のことを考えてしまう。  俺にはやましいことなど何一つない。神に誓って言える。国仲にモーションを掛けられても一ミリも靡かなかったし、国仲とのラブシーンは、感情を込めて愛を伝える演技をしなければならなかったが、その時は、目の前の国仲を湊に置き換えて俺は演じていたくらいだ。あの愛の台詞の一つ一つに、俺は湊への強い思いを込めて吐き出していたのだから。  俺は、会いたい時に会えないのが死ぬほど辛いのに……どうして湊はそれが耐えられるの?  ふと、そんな苦々しい思いが俺の心の中で蜷局を巻く。でも、あの夜の湊はそれができなくて、危険を顧みず俺に会いに来てくれた。それまでは、きっと湊なりに耐えてきたはずだ。  俺は心の中で蜷局を巻く感情をぐっと胸に押し込めながら、湊が来るのを今か今かと待った。  その時、バーの入り口付近に湊の姿を見つけた。湊は不安げな顔をしながら俺を探している。俺はわざと自分の存在をアピールせず、俺を探す湊をこっそりと見つめた。  ああ、すきだ、すきだ、だいすきだ……。  口から音となって飛び出しそうになるくらい、愛おしいという思いが込み上がって来る。心の底から湧き上がるこの感情は、俺の物だと強く抱きしめたくなるくらいに。  湊はしばらくきょろきょろと俺を探していたが、やっと俺を見つけると、安心したような顔をしながら、俺にゆっくりと近づいてくる。  九月に入っても残暑は想像以上にきつく、今日もひどく蒸し暑かった。今は午後の7時だが、昼間の茹だるような暑さの余韻がまだ残っている。  湊は、爽やかなお茶のCMに出る女優の男版のような爽やかさで俺の前に現れた。  明るいモスグリーンの大きめな開衿シャツに、細身の白いパンツのシルエットがこの上なく可愛い。サラサラの茶髪のマッシュヘアは今日も健在で、小顔効果を抜群の発揮している。更に間近で見ると、汗など今まで掻いたことがないと言わんばかりの圧倒的な清潔感に、湊だけ違う季節で生きているのかと疑ってしまうほどだ。  俺はしばらくぼーっと見惚れてしまい、そんな俺を、湊は小鹿のような目をくりくりさせながら、心配そうに見ていた。  ああ、俺の天使は今日もなんて可愛いんだ!!  俺は爆発しそうな感情を必死に抑え込みながら、心の中で強く叫んだ。

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