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第6話

「一磨……これは一体どういうこと?」  湊が、今まで一度も聞いたことのない低い声で俺にそう言った。国仲は意外にも酒に弱かったのか、一気に酒を飲んだせいで、どうやら頭を上げることができないらしい。 「い、いや、別に、な、何もないよ……何でそんなこと言うんだよ」  俺はしどろもどろになりながら、虚空を見つめそう言った。 「何もなくない! 一磨、僕に何か隠してることあるでしょ?」  湊はそう言うと、おしぼりをテーブルに強く叩きつけた。そして、俺の両肩を掴んで顔をぐっと近づけると、俺の目を深く覗き込む。 「な、ないよ! 何もないよ!」  俺は湊の目から逃げるように瞳を泳がすと、湊はそれを許さないとばかりに俺の目を追いかけようとする。 「じゃあ何で? 国仲君は今泣いてるの?」 「え?」  よく見ると、国仲は静かに嗚咽を漏らしていた。まるで必死に泣くのを我慢しているみたいに。 「え、それは……俺だって分からないよ。何で急に泣き始めたかなんて……」  俺は、俺の横で泣き始めた国仲を見て、急に強い罪悪感に苛まれた。湊に会わせたら俺を諦めるという国仲の条件に、俺は湊を嫉妬させるために受け入れたが、本当はこんなことするべきではなかったのだろう。俺の横で涙を流す国仲は、普段軽い態度で俺にモーションを掛けていたが、結構本気で俺のことを好きなのかもしれないと、俺は徐々にそう思い始める。 「分かった……偶然を装った風で出会ったけど、本当は前から計画してたんだね? 違う?」  湊は俺をきつく睨みつけながらそう言った。俺は湊に嫌われるのだけは死ぬほど嫌だから、首根っこを掴まれた猫のように脱力しながら俯いた。 「ごめん……だって湊、もう二度とこの間みたいなことはしないって言うから……もし国仲に合わせたら、また嫉妬して、俺のマンションに来てくれるかなって思って……」   俺は湊の目を必死に見つめながら、今回の茶番劇について湊に正直に説明をした。湊は黙って話を聞いていたが、途中で、俺に心底幻滅するような顔をして見せる。俺はそれが凄くショックで、国仲ではないけど、俺もテーブルに突っ伏して、思い切り泣いてしまいたくなるのを必死に堪えた。 「ひどいな。一磨は。国仲君の気持ち考えなかったの? 一磨を好きだっていう気持ち利用して、僕を嫉妬させようなんて……」 「だって、湊に会わせれば俺のこと諦めるって、智希がそう言うから……俺はその言葉にちょっとだけ自分に都合よく色を付けただけだよ。じゃあ、湊は、このまま俺が智希にモーションを掛け続けられても平気なのか?」  俺は少し感情的になって声を荒げた。どうして湊は俺の気持ちを解ってくれないのか。今までのその不満が、空気の抜けた風船のように一気に飛び出しそうになる。 「そ、それは嫌だよ! 絶対に嫌だ……でも、国仲君が一磨を好きになる気持ちが解り過ぎて、僕も辛くなるんだよ……一磨は本当に、僕には勿体ないくらいの人だから……」  ああ、その言葉、何倍にもして湊に返すよ!  俺は下唇を噛みながら、もどかしい思いを心の中で叫ぶ。  俺たちは、本当は相思相愛だったのに、俺が芸能人になってしまったことで、もどかしくもすれ違ってしまった。湊自身が俺をこの道に行くことを勧めたことを、俺はもっともっと湊に後悔をさせたいのに。湊はそれでも、俺に役者としての道を歩めと言い続ける。あの頃はまだ、お互いが両思いだなんて気づかなかったから、こんな結果になってしまったことを今更呪ってもしょうがないけど、俺はやっぱり、芸能人だとしてもそうでなくても、堂々と胸を張って湊と付き合いたいのに。 「そんなこと言って……俺が智希に心変わりしてもいいのか? この男は湊と違って自分を抑えたりしないぞ? いつだって自然体で、自分を偽ったりしないところが俺と似てるしな!」  そう俺が言った瞬間、国仲がいきなりがばっと顔を上げた。俺と湊はともに驚いて国仲の方を見た。国仲は俺を見つめながら、今にも俺に飛び付きそうな気配を漂わせている。 「一磨さん! それ本当ですか? 俺に心変わりする可能性あるの? 俺、湊さんには、もう絶対適わないってそう思って諦めようとしたんです。でもそう思ったら、やっぱりもの凄く悔しくて……」  国仲は、今まで泣いていたのが嘘のように瞳を爛々と輝かせながら、俺に興奮気味にそう言った。 「ち、違うよ。智希、落ち着けって……本当に悪いけど、今までの俺たちの話聞いてただろう? 俺が堅物の湊を嫉妬させたくてお前を利用したの。な? こんな最低な男、さっさと諦めてくれよ」 「嫌だ、嫌です! 俺、セフレでもいいって言ったじゃないですか! 一磨さんの二号でもいい。ねえ、一磨さん、俺を抱いてくれますか?……」  国仲はまだ酔いが冷めてないのか、しな垂れかかるように俺の肩に頭を載せた。 「おいー! やめろよ! 離れろよ!」  俺は体を揺すって国仲の頭を剥がそうとするが、国仲は、強い力で俺の腕を掴んで中々離れてくれない。  こいつ、何でこんな力あんだよ!  その時だった。がたっと大きな音がした方に目を遣ると、湊が俺たちを見つめながら茫然と立っていた。多分の大きな物音の正体は、湊が立ちあがった瞬間椅子が倒れたからだろう。 「か、一磨……今日は帰るね……ごめんね……僕はやっぱり、君に相応しくないかもしれない……」  湊は、今にも涙が一粒零れ落ちそうなくらい潤んだ瞳でそう言うと、自分のバッグを乱 暴に掴み取り、逃げるように店を出て行った。

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