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第3話

「おい! 通話中になにして……寝てたんじゃないのか⁉」  バスローブを羽織っただけの純が不機嫌顔で抱きしめてくる。スマホは取り上げられた。 「あのさぁ……。勇気さぁ。この状況で他の男と話すってどういうことなの?」  引きつった顔の口元がヒクヒクと痙攣している。 「? 電話に出ただけだろ? お前だってよくマネージャーと話してるじゃん」  枕の上にスマホを放り投げられた。  肩を掴まれ、身体の向きを反転させられる。 「俺が女性と飯行ってたら勇気バチクソ怒ったよな? で、俺は嫌ならやめるって言った! じゃあ、勇気もこいつと話すのやめて。浮気とみなすよ!」 「浮気って……。まあ。お前が嫌なら。……純は、嫌なのか?」 「勇気と話す男は皆嫌いだね!」  真剣な金の瞳を見上げる。アイドルなだけあり、ちっとも目を逸らしてこない。  俺が目を逸らす。 「……いいよ」  呟くと手が離れる。 「そう」  どこかホッとしたように、首の後ろを掻きながら大きくため息をついている。  その隙に俺はスマホを拾い上げると片手で操作した。ムッとした純がまた腕を伸ばしてくるが、身体を傾けてさっと躱す。 「勇気!」 「ほい」  眩しいスマホ画面を見せつける。 「……何?」  鼻先に突きつけられたそれにわずかにのけ反る。 「着拒しといたから。これでいいだろ?」  目を点にするイケメン。  スマホを棚に仕舞うと純が慌て出す。 「あ、えっ? い、いいの? いや俺が言ったんだけど……。そんなあっさり?」 「多分お前が思ってるより、俺は純のこと好きだよ」 「……」  絵に描いたような放心顔で固まっている。  時間差でカァッと頬を染めたのがびっくりするほど可愛くて、つい目を丸くして見てしまう。  見られるのが嫌なのか背を向けた。 「……そう。嬉しいよ」 「こっち向けよ」  尻を蹴るが振り向かない。純の照れた顔もっと見たかったのに。 「あ、そういえばさ。この前渡したお土産、覚えてる?」  あのイヤホンモドキか。 「ああ。用途が分からんから仕舞ってある」 「どこ?」  言われるまでもなく棚から取り出す。 「これ、結局何なんだ?」 「へっへ。いいでしょ? この四角いシールみたいな部分をね」  どういうわけか機嫌が直ったらしく楽しそうに話しだす。やっとこいつの笑顔を見れて俺は満足だ。  俺の表情も緩む。 「ふんふん」 「胸に張ってスイッチを入れたら振動する。張るタイプのバイブみたいな? 玩具」 「………………」  脳内で「?」以外のすべてが消え去った。  イヤホンモドキと恋人を交互に見つめる。 「……は?」 「バイブ~。勇気ほら。胸でめっちゃ感じるじゃん? あれ可愛かったから……てかさ。胸が気持ちいなら教えといてよ。色々ローションとか用意したってのに」  ――胸触られたくないから二年間それとなく躱していたんだが?  忙しいこいつとセックスする機会はそこまでなかったので何とかなっていた。いつも疲れて帰ってくるから前戯はほぼなし。メールで「解しといて」とだけ言われると、風呂に入って一人で解す。帰ってきたこいつがすぐに挿れられるように。  疲れて帰ってきたこいつは獣のようで、滅茶苦茶荒々しく抱かれる。それが割と、その、好きだ。ヤることヤれば俺は気を失っているし、こいつはタバコ吸い出すので平和だったのに。  即座にバイブをゴミ箱に叩きこもうとしたが、予知していた純に腕を掴まれる。 「勇気? 人のお土産を捨てるのは良くないぞ?」 「おっ前! こんなアイテムどこで⁉」 「妃紗良(きさら)に貰った」  しれっと答えている。  スノードヴムの一人。あのミステリアスな雰囲気の最年長か。あいつだけトラックに轢かれろ。 「捨てろ! これは良くない!」 「さっそく試そうよ」  奪い取ろうと腕を伸ばすが頭上に掲げられるとどうしようもない。強めに胸を押される。つま先立ちだった俺は簡単にひっくり返った。 「っぶね……」  自分のベッドの上だったがかなりびっくりした。 「脱いで?」 「寝るんじゃなかったのか?」 「怒りで目が覚めちゃった」 「それなら晩飯食っ……」  黙らせるように口元を掴まれるとベッドに押し付けられる。 「……っ」  覆いかぶさるように乗っかられ、額がぶつかるほど顔を近づけてきた。 「これ付けたらさ。勇気も従順になるんじゃない? 気分じゃないとかつまらないこと言わないで、俺が抱きたくなったらすぐに尻差し出すように調教したい。楽しそう」 「……」  妖しい笑みの純を見て、嫌そうに目を細める。  これに関しては、俺がすぐに挿れられるようにしていた弊害だろうか。我慢が出来なくなってやがる。  惚れた弱みと言うか。恋人なので浮気以外のことは、多少は流してやるが俺だってしたくないときはしたくない。  それ以上に、自分でもなかなか触れないほど敏感な場所にバイブなど、冗談ではなかった。  押さえつけられたまま首を振るが、手を放してくれない。 「嫌がってる勇気も好きだけどね。もうちょっといい子になろっか」  冷や汗が流れる。  何とかしてこの場から脱出したいがどうすれば……  悩んでいたが純はひょいとベッドから降りた。 「え?」  どうしたのだろうか。もしかして急に気分ではなくなったとか? それなら嬉…… 「ごめん。お待たせお待たせ」  笑顔で戻ってきた純の手には、いつぞやの手錠が。 「まだ捨ててなかったのかよ!」 「まあまあまあまあ。あ、そこで寝転がって。拘束するから」  まずいまずいまずい!  前回みたいなことになるとか嫌だ。  寝室の隅に下がるもゆっくりと近づいてくる。 「勇気? 今ならほら、ちょっと虐めるだけにしてあげるから。素直にこっちおいで」 「……」  ライオンに追い詰められた心境だ。ここが一階なら窓から飛び降りていたかもしれない。  残念なことに見晴らしの良い八階。コンクリート地面ははるか下。 「……純? 俺にも触られたくないとこがあるんだよ」 「へぇ~? それって乳首のことだよね? 興奮するわ~」  愛してる人なのに背筋が冷えてくる。  壁に背をつけたまま、突っ立っていることしかできなかった。  蛇のように首の後ろに回された腕に抱き寄せられる。 「はい駄目~。勇気の方からきてくれなかったからたっぷり虐めるね」 「純……」  こいつを殺してでも逃げようと思った時、おもむろに胸を鷲掴みされた。 「あっ! やだ」 「あは。可愛い」  指で撫でられ、突起をきゅっと摘まれるだけで腰が抜けそうになった。純の腕を掴んで身体を支える。 「ここ触られただけで縮こまっちゃうの、いいね」 「……! 純……ぁ、あ」  きつめに摘まれたかと思えば軽く引っ張られ、足に力が入らなくなる。へたり込みそうだった。 「う、ぁ」 「胸だけでこうなっちゃうんでしょ? よくいままで無事だったよね。勇気」  敏感過ぎる場所に触れられ、何も考えられなくなる。あっさり手錠されると家畜のように引っ張っていかれた。  背中を蹴り押され、うつ伏せで倒れたところをベッドに繋がれる。俺がポンポン手を上げるタイプだから、こいつも殴ればいいのに。バイブより、暴力で言うこと聞かせようとしてくる方がマシだ。学生の頃、荒れて喧嘩三昧。強かったわけじゃない。ぼこすか殴られまくっていたけど。そのおかげでその辺の人よりかは殴られ慣れている。  だから殴ってくれ! バイブとかやめてさあ! 「純! ああ、ヤダ!」  要望を伝える前に、純の手が服の中に忍び込んでくる。突起周辺を長い指でまさぐられ、甘い声が飛び出す。 「そこっ! 触っ」  ぎゅっとシーツを握りしめる。 「勇気ほんとに手錠似合うわ。とっても、可愛いよ」  こめかみにキスをしながら、純は胸焼けするような、嫌な甘さの言葉を吐く。  両手は頭上で固定され、背中に跨られる。  手が服から出て行くが、刺激の余韻で頭が痺れていた。 「……ん、う」  くるりと身体を反転させ上向きに寝かされる。 「服捲るよ?」  素肌が露わになる。鼻歌混じりにバイブを胸にぺたりとくっつけていく。 「あっ。やだ。純‼ ……この、ぶっ飛ばすぞお前‼」 「うーん。口も塞いどくか」  恐ろしいことを言われるが足をばたつかせることしかできない。  その状態で猿轡までされた。 「ン、お、う」 「目も隠しちゃう? 見えない方が感じるって言うしさ」  必死に首を振ったが純が移動中に愛用しているアイマスクを装着され、視界が真っ暗になった。 (……)  純しかいないと分かっていてもこれは、かなり怖い。動けないのに視界すら封じられて。自分は無防備な身体を晒すしかないのだ。 「う……」 「怯えてるの? 勇気らしくな~い。耳……は別にいいか」  突然暗闇から首筋をこしょこしょとくすぐられ、首を手の方に倒し肩に力が入る。 「ん、ぐ!」 「あはは。びっくりした? 今ビクッてしたの可愛い……」  唯一動く足で蹴っ飛ばしてやろうと足を振り上げるが、空を切るだけだ。 「あぶねーなー、もー。足癖悪いなぁ。足も縛っちゃうよ? 勇気。じゃあ、スイッチ入れるね? 犬のように従順になれとは言わないけど、寝室では仔猫みたいに、俺の言うこと聞いてもらおうかな?」  カチッと、無慈悲な音だけが妙に大きく聞こえた。  どれだけ嫌だと思っても機械は命令に従う。  バイブが振動を始め、俺はアイマスクの下で目を見開き、声にならない悲鳴を上げた。胸に弱い電流を流されているかのような。ビリビリした微弱な刺激に背中が浮く。 「んっう! んぐ、ぅ、んんんッ‼」 「おー。いいじゃん」 「んん! ぐ、んんんん!」  ――や、やだ! そ、そこ……  手錠が喧しい音を奏でる。前はうるさそうに耳を塞いでいたのに、純は心地よい音楽でも聴いているかのような笑みだ。 「んうううっ。ん、う、ぐううう‼」  枕の上で髪を振り乱す。  苦しい。痛みはないが、あまりに強い快楽が花火のように弾ける。それも一度や二度ではない。バイブが震え続ける限り襲われ続ける。 「ぐう、う、う、う」  顎がのけ反り、足がシーツをくしゃくしゃにしていく。そんなことは気にならない。  ――純! 止め……。純は? まさか寝てないよな⁉  彼を探すように、声を出そうとするも憎い猿轡に阻まれる。 「んぐ、うう! うううっ」 「俺の言うこと聞きたくなったら……。いや、うーん。しばらくこのままにしておくか。勇気は自我強いから。そう簡単には折れないだろうし?」  ――勝手なこと言うな! 止めろ馬鹿‼ やだ、いやだ……  近くから聞こえた声に安堵するが、言葉の内容はゾッとするものだった。 「んんっ、ンンン!」  身体を捩って暴れまくるが、湿布のように貼りついているシールは取れる気配もない。 「ビクビクって。腰がエロイことになってるよ。誘ってるの~?」  ニヤついた声で内ももを撫でられる。じわっと快感が広がり、股間が反応してしまう。 「あは。勇気と違って素直だよね。固くなってきてる」  ズボンの上から股をつつかれ、ぞわっと鳥肌が立った。 「うッんん!」 「どうすっかな。飯食ってくるか? でも勇気がエロイしな……。遊んでおくか」  腰に重さを感じると、指を引っ掻けられ顎の方に猿轡がずらされる。  ぷはっと、まともに酸素を吸えた気がした。 「っ、あ。純! あ、ああ。やああ……‼」  やめろというチャンスなのに。意味のある言葉をなかなか発することができない。 「うわ。こんな可愛い声で鳴いてたんだ」  枕と頭の間に手を差し込むと、声を奪うかのような、吸いつくようにキスされる。 「……ぅ」  唇の感触に、ゾクゾクと背中が痺れていく。  気持ちが、いい。脳が溶けるほど。好きな相手なだけに尚更。 「ふっ、ぁ、はあ」 「知らなかった。目隠し……アイマスクつけるだけで勇気がエロく感じる。いや~? そうでもないか? 勇気はいつもなんかエロいもんな。触りたくなるケツしてるし、絶妙に胸元開けてるし」  わけわからんこと言ってないで、バイブを止めてほしい。 「ぅあ、あああ。だ、め。あっ、ああ」 「そんなに気持ちいい? 普段からつけっぱなしにしとく? この状態で買い物とか……でも他人に勇気の姿見せたくないしな。どうしよっか?」  振動するシールの上からでも乳首が立っているのが分かる。純はわざとそこを引っ掻いた。 「―――ッ‼ アアッ!」  たまらず腰がしなる。 「っ、あ! ばか……っあ。やだ。ん! 引っ掻かな……ンッ‼」 「ちょっと心配になるほどピクピクしてるけど、まあいいか。どう~? 勇気。俺の言うこと聞きたくなった?」  左右の突起をカリカリと優しく引っ掻かれる。前立腺を肉棒で抉られた時のような激しい刺激に似ていて、頭が爆発しそうになった。  ただ喘ぎ声のような悲鳴を上げ続ける。 「やめ! アア! っん、やだ! それやめ……ああ、あああぁあ‼」 「はは。イエスって言わないってことは、まだまだ余裕なんだね」  乳首を押し潰されバイブの振動をもろに感じる。履いていたはずのスリッパがいつの間にか足から脱げていた。  訳も分からず叫びまくり、口の端から涎が垂れそうになる。 「純っ、ああ。やめて、やめええぇ‼」 「……はーあ。眠くなってきたな」  起き上がり棚から雑誌を持ってくると、自分の方のベッドに腰掛けぱらりと開く。でも俺は純が何をやっているかなんてわからなくて。ただただ懇願を続ける。 「やだ、やだあぁ。も、うっ! これやだ、取ってぇ‼」 「……」  ページをめくる。  バイブは止まることも弱まることもなく震え続け、胸からバターがとけるように快感が脳を麻痺させていく。自分が自分じゃなくなっていくようだ。 「アッ! ……ん、ふぅ、あ。じゅ、ん……」 「……」  読み終えた雑誌が積み重なっていく。  これも読み終わると一番古い雑誌に手を伸ばす。自分のインタビューが乗っているページ。確かこれはデビュー当時のもの。ちょっとだけ若い純が映っている。 「自分で見ると、緊張してガッチガチなのバレバレだな~」 「じゅん……」  もう、限界だった。 「……んー? 何?」 「なんでも……、ぁ、きく、から……。あ。たすけ、て……ああ。変に、なる」 「はーい」   雑誌を棚に戻し、待ってましたと言わんばかりにバッドに飛び乗り恋人に覆いかぶさる。 「取るよ」  バイブ、ではなくアイマスクを外される。ぼやけた視界。純の口元が吊り上がっているのだけ理解できた。 「はぁ、う、うう」  俺はよほど酷い顔をしていたのか、純がプハッと笑顔で吹き出す。 「泣きそうじゃん! 勇気。……はー可愛い。駄目だ。滅茶苦茶に犯してる時の焦点合ってない目も好きだけど。これは……増々虐めたい、かも」 「じゅん。取って、よ」  声が震える。聞きようによっては泣き出しそうな声だった。 「何その可愛い声。取りたくなくなったんだけど」  ちょんっと鼻先を人差し指でつつかれ、ぼろりと熱い滴が目の端から零れる。 「きらい……」 「え?」 「お前なんか、きら……きらいぃ」 「あ、はい。取ります」  嫌われたら死ぬのか、純の方が素直になった。ぐすぐす泣き出す俺から、シールをピッとはがす。 「んっ!」 「可愛かったのに。……ま、でも約束は守ってね? でないともっと酷いことするから。それはそれで楽しみだな~」 「……う、あ」  手錠で繋がれたままパタリと意識を失った。 「ゆーうき」 「うわ」  寝室では言うことを聞く。という条件の元解放してもらったので言う事を聞いていたら、ホテルに泊まらず純は頻繁に帰ってくるようになった。前だったら素直に喜べたんだけどな~。  揃えずに靴を脱ぐと、子どものように飛びついてハグしてくる。煙草や香水が混じったにおい。仕事お疲れさん。  頬ずりされる。 「はわ~。勇気のにおいが落ち着く。今日もいっぱい遊ぼうね? 玩具買ってきたよ」 「また⁉ 無駄遣いはよせとあれはど……」  小言は聞きたくないと唇を唇で塞がれる。  流される前に、純の胸板をやんわり押し返す。 「お前。キスすれば俺が黙ると思ってるだろ」 「はー? 俺とのキスが好きなんでしょ? 『寝室』で教えてくれたじゃん」 「っ、あれは!」  寝室にいないときに寝室での話をされるとかなり恥ずかしい。変な質問ばっかりされて、それに正直に答えるまでバイブで遊ばれた。どうにも純は「訊問ごっこ」にハマったらしい。頼むから一秒でも早く飽きてくれ。  俺の願いは虚しく、あれから拘束器具も増えたので寝室の一角が拷問室のようになっている。いやあれは拷問だろう。精神的に痩せそう。  唸っていると、純が耳元に顔を寄せてくる。 「今夜もいっぱい楽しもうね? あ、いつもどんな感じに尻穴解してくれてるのか、実践してもらおっかな」 「ばっ! ……っか」  顔を真っ赤にして腹立つ背中をぽかっと殴るが、純は笑いながらシャワーに直行した。

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