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第9話

そのメッセージに引き寄せられるように、俺はLINEを開いた。返信しようか考えあぐねていると、間違えて通話ボタンを押してしまった。「はい。もしもし小野寺です。」と小野寺さんが3秒も立たないうちに電話に出てしまって、焦って、黙りこむ。「キヨさん、最近fat catのライブないし、snsも更新されなくて、心配になって連絡しちゃいました。俺になんかできることがあったら言ってほしいです。」小野寺さんが優しく諭すように話かけてくる。忘れてたけど、小野寺さんは俺のバンドのガチファンだった。「悩んでることがあるなら、人に話すだけでもすっきりしますし、俺でよければ聞くので。」小野寺さんは俺の言葉を静かに待ってくれている。俺は途切れ途切れ今の気持ちを言葉にしていく。「最近、晴彦さんの音がすごく悲しくて怒ってるみたいな音をしてて、その音がなんていうか俺の昔鳴らしてた音に似てるんです。あと、俺の兄の姿に晴彦さんが重なってみえて、晴彦さんもいなくなってしまうんじゃないかって不安なんです。晴彦さんは、俺が苦しいときに救ってくれた恩人だから、辛いんです。俺。もう、尊敬する人が壊れていくのを見るのは嫌なんです。何もできない、俺が大嫌いなんです。」 最後の方は、泣きながら嗚咽混じりで、何を言ってるかわかったものじゃなかったろう。こんなこと、両親にも晴彦さんにも、真矢さんにも言ったことはなかったのに、小野寺さんには、話してしまった。小野寺さんは少し黙っていて、息を吐く音が聞こえた。 「キヨさん、俺は今から少し厳しいことを言います。 いつまで尊敬する人が壊れてくのを見てるだけの人でいるんですか。お兄さんのトラウマに囚われ続けて、今を見失ってますよ。お兄さんのときは、バンドメンバーでもないキヨさんにできることは、少なかったかもしれない、でも今は違うでしょ。キヨさんはハルのバンドメンバーで、ハルを助けたいんですよね。なら、できることはたくさんあります。俺から見るとキヨさんは全部あきらめて楽な方に逃げてるみたいにみえます。バンドメンバーなら、ハルを1人にしないで、本音でぶつかってくださいよ。」 鈍器で頭を殴られた気分だった。俺はもう克服したと思ってたトラウマのせいで全く動けなくなっていた。今、話したのだって、小野寺さんからキヨさんにできることはないですよ。キヨさんは頑張りました。と言って、諦めさせて貰うのを待っていただけかもしれない。こんな、自分が嫌になる。でも、小野寺さんの言う通りだ。俺は、昔の俺じゃない。壊れる兄をただ見てただけのクソガキじゃなくて、晴彦さんのバンドメンバーだ。俺は変わったんだ、変えてもらったんだ。だから、今の俺は俺なりの精一杯で晴彦さんに本音を伝えるんだ。 「小野寺さん、ありがとうございます。目が覚めました。あと、用事できたんで、電話切ります。」 ブツリと電話を切る。小野寺さんの優しい言葉を聞いたら俺は動けなくなってまう弱い奴だから。ごめんなさい。そして、真矢さんに電話をかける。 「真也さん、スタジオ来てください。あと、晴彦さんも連れてきてください。」 真也さんは、すぐに行くとバイクのエンジンをかける音をさせながら答えてくれた。俺はベースをもって、碌に上着も着ずに外へとでてスタジオへ向かう。俺は言葉は苦手だから音楽でしか伝えられない。薄っぺらい言葉じゃなくて、本当の俺の気持ちを晴彦さんに知ってほしいんだ。

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