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第15話

高校生になる頃には、ハルは技術も追いついて誰が見ても天才だった。高校には、軽音部があって、俺とハル、ハルと同じクラスの奴でバンドを組んだ。俺とハルが昔から行ってた駄菓子屋にいる太った猫からとってfat catというふざけたバンド名に俺以外のメンバーで決められた。今のバンドのロゴに描かれている下手くそな猫の絵はハルがその時に描いたものだった。初めは楽しくやっていた。ただ、ハルともう1人のメンバーとの熱量の差から段々とバンドは上手くいかなくなった。もう1人のメンバーは女の子にモテそうというモチベーションで始めたのに、ハルばかりがモテて全く女子にモテない状況が気に食わないらしかった。ハルはハルで、もう1人のメンバーが練習に来ない、曲を練習しないという姿勢にキレていた。結局、もう1人のメンバーは抜けてベースがいない俺たちはバンド活動ができず、鬱々とした日々を送った。ベーシストを探してもハルは 「俺についてこれない奴はいらない。」 と頑なで、メンバー探しは難航していた。 そんな中で、もう1人の天才キヨと出会った。ハルを気晴らしに、近所のカラオケに連れて行った。ハルがトイレに行ってから中々、帰って来ず、心配していると、 「ベース見つけた!こいつ、俺らとバンドやるぞ!」 ハルがベースを抱えた中学生を引っ張ってきた。見るとその中学生は、怯えた目をしている。そりゃ、いきなり高校生に連れて行かれるなんて恐怖でしかない。ハルの破天荒さは時々、度がすぎる。 「ハル、そいつ怯えてるから離してやれよ。」 俺に言われて、ハルが中学生の手を離す。ただ、中学生はまだ怯えている。安心させようと俺はなるべく優しい声で謝罪する。 「ごめんな。怖かっただろ。自分の部屋、戻っていいぞ。」 俺がいうと、震えた声で中学生が言う。 「あの、バンド入ります。入れてください。えと、ベース持ってきたんで俺の演奏聴いてください。」 驚いたことに、俺たちのバンドにこの中学生が入るのは本当だったらしい。中学生はいそいそとベースを準備し始める。ベースを鳴らした瞬間、先程までの気弱な少年はいなくなった。少年の鳴らす音は、周りに対して俺を見ろと叫んでいて、周りを蹴散らすみたいな迫力があった。ただどこかに焦りを感じ、その焦りが持つ危うさにも引き込まれる。チラリと隣にいるハルを見ると見たことがない顔をしていた。 キヨの鳴らす音はハルを食うみたいな音だった。そこにハルも楽しそうに、応戦する。そんな2人を見ていると、自分の才能の無さに絶望した。俺はハルに負けたくなくて、隣に立ちたくて音楽をしていた。けど、器用貧乏な俺はあの2人みたいに熱を持った音なんてのは出せなかった。ハルとキヨという2人の世界に俺の入る隙間なんてないという事実が残酷に俺の前に立ちはだかった。だから、俺は2人を際立たせる音を出すと決めたのだ。ハルの楽しそうな顔をみれるなら、自分のプライドなんて捨ててやる。いつしか俺のハルに負けたなくてやっていた音楽は、ハルのための音楽になっていた。

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