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第4話 苦痛のケア2
その極限状態の中で、知紀の手が僕の体を這い回り、背中にぞわりと不快な刺激が走った。
「……雪弥」
僕は一体何をされているのだろう。気がつくと、体が小さく震え始めていた。
「とも……、やめ……」
優しい手は、やたらと慣れた手つきで、僕のシワだらけになったシャツを開いて落としていく。
そういえば、涼介はプライベートではいつもシャツを着ていた。だからだろうか、彼は時折僕を涼介と間違えているんじゃないかと思うような反応をすることがある。
そうだとしたら、余計にこのままでいてはいけないだろう。こんなことを涼介が知ったら、なんて言うか分からない。どうにかして彼を止めなければと思っていると、ふと胸元に濡れた感覚がした。
それが何をされて起きた感覚なのかということを理解した時、急激に恐れが吹き出した。幼馴染に抱く、初めての強い嫌悪。能力どうこうではなく、感情が彼を嫌がっている。
——いや、いやだ。
「動かないで、雪弥。手に傷がついてしまうよ」
優しく諌めるような口調でそう言うと、息が僕の胸の先端にあたる。それが妙な刺激になって、思わず声を漏らした。
「……ンぅっ」
思わず漏れた声に、恥ずかしさのあまり目を瞑る。すると、ふっと空気が変わるのが分かった。
「良かった。やっぱり雪弥はこうして欲しかったんだよね。安心して、俺がお前をケアしてあげるからね。人のために働いて疲れた雪弥を、俺がガイディングしてあげるよ」
そう言って、ふ、ふ、ふ、ととても嬉しそうにはにかんだ。
「タチをするのは初めてだけど、俺、頑張るからね」
それは純粋な好意のように見える。涼介を死なせてしまった僕への新しい当てつけなのかと思ったけれど、どうやら違うみたいだ。純粋に自分が僕を助けられる存在だと思っていて、それを心から喜んでいる。
ただそれだけの事だと言っている。表情にも、体の周りに漂うオーラにも、嘘は見られない。まっすぐに僕へと好意を向けている。それが間違いないと分かったことで、僕の恐怖は余計に深まっていった。
「知紀、君は僕を好きなわけじゃ無いだろう? どうしてそんな……んぁっ!」
いつの間にか服は全て剥ぎ取られ、知紀は僕の上で帯を解き始めていた。着物を脱ごうとする度に、体が揺れる。わざと擦り付けられた布同士が擦れ合って、だんだん熱を帯び始めていった。
「……知紀っ! やめて!」
それでも彼は一向に止まる気配を見せない。興奮しきって混乱しているのかと思いきや、そういうわけでも無いらしく、僕の焦りに反して、彼の方はだんだんと冷静になっていくようにすら見えた。
「大丈夫だよ、僕には出来るから。バースなんて関係ないんだ。やろうと思えば、相手のために心から役に立ちたいって思えば、何でも出来るんだよ。ほら、こっち向いて」
「……やだっ! やめて……っ!」
そこから先のことは、あまり覚えていない。
うっすらと記憶にあるのは、馬乗りになった知紀の体が揺れるたびに痛みと絶望を味わったこと、呼吸が止まりそうなほどの嫌悪を感じたこと、そして、月の無い夜の闇の中に溶けるような長い黒髪が、まるで意思を持った動物のように跳ねている様が見えていたことだけだった。
僕は途中から全てを諦めて、命を守るために感覚の全てを遮断した。
それは僕が長年かけて身につけてきた、努力の成果だ。ケアを受けることが出来ないセンチネルは、自分でそれと同等の力を身につけていくしかない。誰にも助けてもらえない僕は、そもそもの不快の元を断つという技術を身につけていた。
それまでは誇りだったその技術を、こんな風に使う日が来るとは思いもしなかった。
その夜が明けてから、僕は毎夜このケアという名の暴力を受けている。
仕事で疲弊して、家で追い討ちをかけられ、それを薬と自分で生み出した技術力だけで回復させ、なんとか生きている。
いつも頭を悩ませている。僕は、涼介になんと詫びればいいのだろうか。彼自身の命を守ることが出来ず、能力者としてあるまじき怠慢から、それを奪うような形になってしまい、そして今、彼が最も大切にしていた知紀を守ってあげることも出来なかった。それどころか、彼を醜い怪物へと変えてしまった。
僕たちは仲良く育った幼馴染だったのに。僕はただ、二人が幸せに暮らしているのを眺めながら、静かに生きていられれば良かったのに。どうしてそれすら許してもらえないのだろうか。
「……苦しいよ」
この言葉を人知れず呟く事でしか安らぎを得られない。僕はもう、限界を迎えていた。
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