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第10話 ケアバー プルシアン
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飲み会の場所から走って五分。大通りから一本入った場所に、ひっそりと佇むケアバー「プルシアン」がある。
そこは正式なパートナーを持つことを面倒に思うようなセンチネルたちが、仮初のパートナーを求めて遊び歩いている店だ。
ただし、会員制で身元がはっきりしている者しか出入りできないようになっていて、入り口には厳つい見た目の警備が二人立っている。
僕も今の仕事を始めてからは頻繁にお世話になっていて、最近は毎晩ここに来ている。もはや第二の我が家のようなところだ。
警備に会員証をスキャンして貰って階段を下り、中へと入っていく。金曜日の深夜とあって、バーはほぼ満席だった。
「うわ、この時間でもまだこんなにいる。連絡もらっておいて良かった」
見渡すと、いつもは人の少ないテーブル席にまで、ぎゅうぎゅうに客が座っている。そこは、週末だけに行われる、ガイドの彫師がセンチネルにタトゥーを彫ってくれるというスペースだ。
その印を入れておけば、特定の相手を持たなくても、国から咎められる事がない。それをするのが嫌なら、自分の相手くらい自分で探しなさいという脅迫のようなお達しを、僕らはセンチネルという烙印を押された日に言い渡されている。
実は僕の胸にもそれがある。ただ、僕の場合は
『特定の相手を探していますが、レベルが高過ぎて見つかりません』
という意思を表示してもらっているらしい。
なぜ「らしい」と他人事のようであるかというと、このタトゥーはセンチネルの目には見えないからだ。見えないものは確認のしようが無い。
僕がそれを彫ったのは十三歳の時で、ガイドである父さんに見守られながら、プルシアンで国指定の彫師である白藍 というお爺さんにお願いした。そのお爺さんは高レベルのガイドで、僕に触れても全く痛みを感じることが無かった、唯一の人だった。
そもそも針を刺して色をつけるという行為自体が怖過ぎて、僕はそれをしないといけないということを考えるだけでゾーンアウトしそうだったのだけれど、そのお爺さんがすごく優しくて、終始ぬるま湯に浸かっているような穏やかな気持ちの中で施術してくれたので助かった。
父さんがずっと付き添ってくれていて、完成したものはちゃんと指示通りに彫られていると確認してもらっている。でも、自分の目には見えないので、本当のところは正直何も分からない。ただ、そこは父さんを信じるしか無いので、きちんと出来ているのだと信じている。
僕の目はなんでも見えるのだと思っていたので、自分に見る事が出来ないものがあると知った時に、とても驚いた。センチネルにそれが見えないようになっているのは、それが体に描かれているだけでショックを受ける人もいるからだという。
基本的に人に見せるものではなく、病気でも怪我でも無いのに倒れているセンチネルがいた場合、検査をしなくてもゾーンアウトの可能性へと辿り着けるようにするために必要なものなので、基本的にはプライベートゾーンに近いところに描かれている。
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