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第11話 ケアバー プルシアン2
そして、彫師は当然のようにガイドしかいない。プルシアンのスタッフは皆ガイドで、全員彫師として認定されている。
彫師がバーテンも兼務していて、そこで人件費を抑えることが出来ているらしく、他のケアバーよりも手厚いケアを受けられるのに、会費以外の利用料金が格段に安くすむようになっている。
だから、高い年会費を支払っても有り余るほどの恩恵を受けられるとあって、ここはいつも賑わっているのだ。
彫師を待つ客たちの中で、ピアスだらけの人たちは、大体が能力の高いセンチネル達だ。しかし、その制御力が低く、センチネルとしてのレベルは中ランクに値する。口からの抑制では間に合わないため、点滴のようにアクセサリーから常時抑制剤が注入されているのだ。
そして、アクセサリーをせず、体に張り付かない天然素材のゆるい白シャツと淡い色のパンツを履き、屋内用のカラーフィルターグラスと呼ばれるサングラスのようなメガネをかけている者は、僕より少しレベルが低いくらいの、世間一般では高レベルに属しているセンチネルであることが多い。
そして、客の中にはガイドもいる。彼らはパートナーを固定せずに、ケアとガイディングという善行と、自分の性欲処理を合理的に行うためにここへやって来る。いわゆるヤリモクだが、身元ははっきりしているので、センチネルに対して酷いことはする事はない。
自由奔放そうな見た目をしている者が多いため、一見治安が悪そうに見えるけれども、皆品よく過ごしていることも人気の理由の一つだろう。
そして、店内の雰囲気がとてもいい。客にセンチネルが多いため、店内はさまざまな配慮がされており、カジュアルバーとは思えないほどに静かで、雰囲気としてはオーセンティックバーに近いものがある。
お酒も食事も美味しくて、自分の欲を満たしながら、人助けまで出来る。週末の夜を過ごすには天国のような場所だということで、センチネルとガイドの間では、知る人ぞ知る名店と謳われている。
僕もここへ辿り着けたことで、今日もようやく、尖り切った五感をいつも通りのレベルまで緩めることが出来た。疲れ切ってカウンターに座ると、ほっと胸を撫で下ろす。
「あらいらっしゃい、ユキ。なあに、あんたすごく辛そうね。とりあえず、抑制剤飲む? あんたの薬、まだ残ってるでしょう?」
ママは僕を見つけると、にこやかに笑いながらおしぼりを出してくれた。そして、カウンターから身を乗り出すようにして僕の顔に手を触れ、体調を確認していく。
その手に、ほんの少しだけ吸い寄せられるような感覚がする。これはガイディングされている時の触覚に起こる反応だ。
居酒屋で石田さんがしていたものと似ているけれど、情報を抜かれるにしても、ママのレベルは石田さんとは比べ物にならないくらいに高いため、僕に違和感を抱かせる事もない。むしろ、それをされることで緊張から解き放たれるため、快感すら得られるくらいだ。
「んー……結構ヒドイわね。抑制剤が効くまで待ってたらアウトしそうだわ。……私が飲ませる?」
ママはそう言って、店に常備してある僕専用の抑制剤が入ったアルミケースを振る。カラカラと乾いた金属音を鳴らしながら、僕へガイディングの同意を求めた。
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